「ねぇ、秋雨さんたちは何をしてるの?朱音様はどうしてる?」
この屋敷に座敷牢などは無いことは知っているが、怒った彼等が軽い処置で済ませるわけがない。
露李はなるべく感情が籠らないようにして美喜に尋ねた。
美喜は少し眉をひそめ、目を逸らす。
「露李は嫌かもしれないけど、温い処遇にはないわ。分かってると思うけど。…まあ、間違っても牢屋とか拷問とかじゃないから。そこは安心して」
そう、と頷いて自分の膳にめを落とす。
敬意を払うべき“神”といえど容赦はしない。
それが、露李と同様に“彼等”の覚悟なのだと、分かっていた。
「そうだね、ありがと」
「……あら。もっと反対するかと思ってたわ」
意外そうな美喜に笑いかける。
「皆がすごい怒ってくれてたの、知ってるから」
そうね、と笑顔を返される。
湿っぽい空気が去った後で、結がいつも通りの眩しいばかりの笑顔を咲かせた。
「よーし、じゃあその話は後だ!静ー!」
「はいっ。お任せください」
意味ありげに結が呼ばわると、静も嬉しそうに返事をする。
そして目を閉じ、萌黄色の気を纏った。
「え?どうしたの?」
「お前はどうにも自分がいかに大事にされてるか分かってねぇみたいだからな。見てろ」
にやりと理津が妖しく笑い、ますます不思議な顔をする露李。
「え、分かってるよー…」
「俺達が不安なんだ。露李がすぐにどこかに行ってしまいそうで」
いつもの仏頂面ではない、傷ついたような表情で見つめられ言葉を失った。
──そんなことないよ、だなんて。
なんて、説得力のない。
黙って行こうとしたわけじゃない、いずれは来るはずの日だったけれど、それでも。
私は皆を裏切った。
守るはずが、傷つけた。
「露李先輩。秋雨さんたちにご飯を知らせるので、何か言って下さい」
「私?」
「そうですよ、露李先輩が言うことに意味があるんですから」
曖昧に頷くと萌黄色が飛んできて、露李を取り巻いた。
普通に話すみたいにしてください、と言うのでおずおずと口を開く。
「秋雨さん、宵菊さん、睡蓮さん。…ご飯、一緒に食べましょう?えっと、場所はいつも食べる、何て言ったら…食堂じゃないですけど」
おろおろしながら言い終えた。
とにかくは伝わったと一息つくと、隣から押し殺した笑い声が。
「ちょっと二人とも。何笑ってるの」
「お前たどたどしすぎんだろ」
「だって電話以外で話したことないし!それに電話も繋がりがディープな里とかこことか使わないじゃない!」
「いや。悪い、悪気はなかったんだ露李。すまん。許してくれ」
一言の間に謝罪を入れてくる疾風に笑いそうになりながら理津を睨む。
そんな眼差しに小揺るぎもせず理津は紫の目を細めた。


