しかし結は別段なにも思うところは無いようだ。
「はーやーく」
急かされ、この際仕方がないと腹をくくる。
少しだけ口を開くと、顎に手をかけられ上を向かされた。
鼓動が速くなる。
「行くぞー」
さらさらと粉が流し込まれた。
コップは片手で持てるし、水を飲むくらいはバランスが悪くても出来るだろうと口を閉じようとする。
しかしそれは許されなかった。
「別に無理に動かさなくても良いんだぞー?後、すぐ水飲まねーと苦い」
苦い臭いがしてた、と言いつつ結は露李が取ろうとしていたコップを取り上げ、また口元まで持ってくる。
真っ直ぐな視線とぶつかり、また顔が熱くなるのが分かった。
綺麗な翡翠が自分の口元だけを見ていると思うと、どうにも居心地が悪い。
「ん、入れるぞー」
水が口の中に入ってきて、すぐに薬を飲み込む。
「よーし、これで良いな」
結が離れ、俯いている露李に首を傾げた。
「どうした?」
「や、あの何でも」
何だよ、と結が露李の顔を覗きこむ。
翡翠と目が合い、その距離に目を見開いた。
そして結も思った以上の近い距離に、ばっと身体を離す。
「あ……あー!!悪い!このイケメンの輝きが強すぎたなー!見慣れてねーよな!イケメンは!」
わざとらしい言い方に何だかおかしくなってしまう。
「さすがに自分でそれは無いと思います」
「は!?」
「さすがに自分でそれは無いと思います」
「二回言うな!失礼なやつだな!」
「イケメンなら皆そうじゃないですか。強さと美しさはこの世界では同義でしょ」
「いや、けどな!言って良いことと悪いことが──」
反論しようとした結に露李がぽんと閃く。
「そうだ結先輩!私、理津と疾風に抗議しなきゃいけないんです。ブスとか阿呆とか言われたんですよ!」
「あー……」
「待ってくださいそれどういうことですか、同意ですか!?」
「阿呆は確実だなー」
「ムカつく!もう怒りましたっ、早く行きましょう!」
慣れない雰囲気は打開できたが、まだ真っ赤なままの二人だった。