「おーまーえーはー!!!」
「ひいいっ、ごめんなさいっ」
「どれだけっ、俺がだなー!!俺が!!」
「待って結。俺『たち』でしょ?」
「おお!!俺たちがー!!!」
言葉にならない気持ちを結がわなわなと露李にぶつける。
固まっていると、唐突に水無月が離れた。
「ひ、氷紀?」
「ゆっくり怒られてね。今、俺すごく怒っててどうにもならないからさ。とりあえずあのインチキ神もどきババアをどうにかしてくるから」
立ち上がった水無月を追うように露李が口を開きかけるが、それを彼が視線で止める。
「ごめんね。露李に今、あの人に酷いことはしないでとか、言われる筋合いないから」
初めて怖い声で言われ、泣きそうになる。
しかし自分の行動が引き起こしたことだった。
「水無月、気にすることないからね」
その背中を見かねた文月が水無月に声をかける。
「うっ……露李に怖い声で……俺、どうしよう……」
「あ~…水無月、大丈夫だぞ。な?行こうなぁ」
「水無月、そんな泣かないで。ね?姫様も帰ってきたし、貴方が怒ったわけも分かって下さるわよ」
睡蓮と宵菊も水無月を二人がかりで慰めながら出て行った。
そして、ガラガラと戸が閉まる。
今更ながら、ここは宝具や御神体を祀っている建物だと気がついた。
「さあ露李ー。みっちり説明してもらうからなー!」
「は、はい……」
「どうしてこんなことしたのかな?まずそこから聞かせてもらおうかなぁ」
「あの、えっと……書き換えれば、皆が守護者とか風花姫とか花霞に囚われずに生きられるかなぁ、と……」
ぴき、と空気が凍った。
「…………それで?」
疾風の声がこれ以上ないほど硬い。
「えっと、それでって言うのは」
「それで、てめぇは俺たちが幸せになれるとでも思ったのか?あ?」
「理津、あの。……はい、思いました」
「とんだ勘違いです」
静の怒った声に驚く。
「幸せに、なって欲しかったから……」
ただ、それしかなかった。
「あのなあ!!」
結が耐えかねたように声を荒らげた。
「本っ当に、そんなことして俺たちが喜ぶと思ったのか!?俺達はっ……」
言葉を詰まらせ、結は露李の頬を片手で掴んで顔を近づけた。
「お前を犠牲にしてまで幸せになるつもりはない!」
「結先輩、痛い~……」
「おーおー痛がっとけ!!俺達は心がいてーわ!あー!!痛いなぁあー!!」
「ごめ、ごめんなさい」
「本当だよ露李ちゃん。当分、信用されないねこれは」
「ええ……」
「本当に分かってるのか。お前、俺達は本当に死ぬかと思ったぞ」
「てめぇまじでふざけんなよ。ムカつきすぎてこちとら語彙力ねぇんだよクソ」
「本当にごめんなさい」
ぐいっとそのまま上を向かされる。
目が翡翠のそれとかち合った。
「良いか!よーく覚えとけ!分かるか!俺達は露李なしで永遠に平和ボケして過ごすより、殺伐としたお前ありの方が良いんだよ!」
結はいつものように頬を膨らませた。
そして首から耳までを真っ赤に染める。
「それほどまでに!俺達にはお前が必要ってことだバーカ!!約束も破りやがってこのアホがー!!」
ふんっ、と言って立ち上がり、結はドスドスと出て行く。
「当分監禁だからね」
不穏な宣言をして文月もそれを追いかける。
「じゃあなブス」
「ブス!?」
「じゃあな、阿呆」
「阿呆っ!?」
理津、疾風の順で二人揃って暴言を残していき、
「露李先輩。次はありませんからね」
静も足音高く出て行った。
そして。
「さあ露李。懺悔をしてもらおうじゃないの」
「逃がしませんよ」
怖い顔の美喜と、恐ろしい笑顔の海松にしっかりと叱られた露李だった。