「あの、怒ってます?」


恐る恐る尋ねる。

その場を去ろうとしていた秋雨がぴたりと動きを止めた。


「………………怒っていない。怒る筋合いはない。たとえ俺─私が、露李姫を神から遠ざける策を探すのを兼ねて旅をしていたとしても、君はそれを知る由もないからな」


「怒ってるんですね。……そんな風に思ってくださってたなんて、本当にごめんなさい」


「本当に分かってんの!?」


「分かっ…いたっ!痛い痛い、美喜っ、殴らないで!!」


「嫌よ殴る!!」


「海松ちゃん助けてっ」


「いやです。私も殴らせて頂きます」


ええっと身をのけぞらせる。

それにもう少し離れてほしい気もする水無月。


「ひ、氷紀……重いよ」


左腕も痛むのに。


「嫌だ。今離せば露李絶対どこか行く」


「い、行かないから……」


「信じない。絶対信じない」


少し困るが──それほどのことをしたのだと、思った。

私を皆忘れるからひとときの悲しみだなんて、都合のいいことを考えて力を使ったのに。

こんな風になるなんて。

そして、目に映った妖艶な女性とポニーテールの男をじっと見る。


「嫌ですよ、姫様。私は助けません」


「悪いな姫さん。俺もだ」


二人とも目が赤かった。


「力の波動を感じる。もうすぐ彼らが帰ってくる。──私は、朱音の様子を見てくる」


誰にとはなく秋雨が言い残し、出て行った。


それを言っている間にも露李のとなりに五色の気が集まり、人形を為し。


「こおおおらぁーーー!!!!!」


結の怒声とともに、守護者たちの姿が現れた。