「あー、腹減った」
神社へ続く道に入ったところで朱雀が空を仰ぎながら言った。
「夕飯海松が作るんだろ?何だろうな今日は」
水鳥も心なしか嬉しそうだ。
「僕は筑前煮が食べたいです」
海松ちゃんは料理が上手だから筑前煮もすごいんです、と知恩が露李に補足説明。
「静は分かってないな、海松のしょうが焼きは逸品だ」
「はっ、てめぇはやっぱりオコサマ味覚だな」
本格的な参道に入った。
その瞬間、守護者たちの姿が元に戻る。
「あれ…?」
「姿現しの結界だよ。これを通過すると術が解ける」
ぶっきらぼうに説明を加えてくれる朱雀は、優しい。
「そうなんだ…今日も皆泊まるの?」
そう訊いた刹那、後ろから抱きすくめられた。
勿論、いつの間にやら露李の背後に回り込んだ水鳥だ。
「あぁ、俺たちはな。何だそんなに泊まって欲しかったのか?」
「ちがっ…」
甘い、妙に色気を含んだ声が耳元をくすぐる。
べりっと朱雀と知恩が水鳥を引き剥がした。
「何だ、邪魔すんじゃねぇよ良いところを」
「い、良いとこじゃない…」
顔を真っ赤にした露李は素の口調が出ている。
思わず朱雀の口元が弛む。
「…気持ち悪いな疾風。ニヤニヤしやがって…ムッツリだな」
「誰がニヤニヤでムッツリだ!」
「俺は公然だからマシだ。ムッツリはたちが悪い」
「止めましょうよ二人とも…」
げんなりした知恩が二人をとりなす。
参道に入れば近いらしく、瞬く間に神社に着いてしまった。
「あぁ、さっき言い忘れてたけどな露李。基本は送迎係が夜の護衛をする。だから今日泊まるのは俺と理津と静だ」
「うん、分かった」
先程聞きたかったことを中断されてしまったので、やっと答えが聞けた。
「そんな顔してんじゃねぇよ」
「え、何?」
今度は本当に自覚が無かったために水鳥に聞き返す。
「強力な結界を俺らがお前の周りに張って、それが破られそうになったら守護者が気づくようになってんだよ。だからお前が思うほど重労働じゃねぇ」
もうなんか申し訳なく思うのが癖になってきたかも。
露李は自分の感情が出やすい顔に手を当てて、苦笑した。


