「愛なんて、私には感じられないわ」
露李の言葉を聞いた瞬間、朱音の目がぱっと見開かれる。
堰が切れたように朱音は話しだしていた。
「これはこれまで力に苦しんできた貴女への私の愛情でもありますのよ?こんなになってまで貴女を求めていますのに!!どうして、どうして分からないんですの!」
「分からないわ、命を簡単に滅しようという人の気持ちなんて」
「──では、分からせて差し上げましょう」
朱音の目が赤く染まった。
戦闘の合図に、露李も自身の力を解放する。
それはできたものの。
「ない……」
身体にあるはずの雹雷鬼が感じられなかった。
あの温度がなかった。
「よそ見なんてしている暇がありますの?誰も助けには来ませんわよ、本当の貴女の自我は眠らされていますの!」
こちらへ向かってくる朱音を避け、屋根の上を跳躍して逃げる。
何か策が。
この場を打開する、何か。
あるとしたら、一つしかない。
さっきから聞こえる、この泣き声の正体。
──これは、私だ。
「露李ーーーーーっ!!!」
自分で自分の名前を呼ぶのもおかしなものだ。
しかし、地上に少女はいた。
「みらいの、わたし……」
泣きながらこちらを見ている。
露李はそこに向かって飛び降りながら、叫んだ。
「未来の私は、強い!!貴女の罪も痛みも、全部全部受け入れるから、だから!!私をここから出して!!」
受け入れてほしい。
そう願った過去の自分が、ここを造り出した。
屋敷のかたちに変えたのは朱音でも、意識の中の世界を造り出したのは彼女だ。
「何があっても負けたりしないから!!」
「みらいのわたしは、つよい」
そう呟く少女が、顔を上げた。
幼い自分を、抱き締める。
「ねえ、ひのりにいさまを助けて……?」
その言葉を聞くや否や、露李は白い光に包まれた。


