【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく



「ここは、かつての神影ですの」


「そう…なんですか」


「私たちがまだ若く、清らかな気で満ちていた頃の神影。一族の者が集い、世界を見る者としての勤めで疲れた身体を癒し、穢れを祓った地」


鬼は自分達を総じて神影と名付け、ここに集まった。

朱音は噛み締めるように花々を見下ろしながら語る。


「今でこそ壮大な意味合いを持っていますけれど、本来の私たちのいう“神”は──世を平穏に保つ者。崩壊に導く者を退け、できるだけ幸福な道を辿らせる者なのですわ」


「お待ちください。それでは、今と昔で表す“神”の意味は異なるということですか?」


「そういうことですわ。幸福は、心がない者には理解することが出来ない。ですから私たち鬼──人間に似ているけれど同じではない、強い力を持つ者がいるのです」


神とは、何か。

それを問われて答えられる者はそういないだろう。

露李は言葉を失って朱音を見つめた。


「何かを生み出し、もたらしてくれる存在──そう定義しましたら神など存在しないと同じこと。言うなれば、“世界”そのものが“神”ですの」


朱音は艶やかに笑った。

その笑みに隠れた何かを探ろうと、露李はじっと彼女を見続けた。


「けれど、人間だって思考することができますの。彼等の運命に神は干渉できません。それに人間は傲慢ですわ。大きな力を持つ者に焦がれ、時には憎しみ、駆ろうとし、そのせいで私たちは死に絶えつつありますのよ」


笑顔によく似た表情を貼りつけ、重い感情を晒す朱音の声に鳥肌が立つ。 
  
朱音はそれ以外の感情を失ってしまったかのようだった。


「朱音は疲れてしまいましたの。だから、貴女。代わってくださるかしら。ほら、人間みたいな理由でしょう?」


「…恐れながら朱音様ご自身が神を軽んじて考えるな、と仰ったばかりです」


「あら、だって引退した後に世界を滅されては困りますもの」


うふふ、と少女のように“神”は笑う。