露李の動きがぴたりと止まる。
吹き荒れていた風も、銀色の気も無くなった。
ただ、露李の前に現れた海松の姿に注目しているようだった。
「泣いているのは、貴女でしょう───?」
緑青の気を纏い、海松の声がそこにいる全ての脳裏に届いた。
くしゃっと顔を歪めて、海松はポロポロと涙を溢している。
真珠のように流れるそれを、露李は目を見開いて見つめていた。
「ない、て……」
「一人じゃないですから、私も、皆さんもいるんですから」
「どうして、」
「一人だなんて、言わないで───」
結界が破れた。
露李がぺたんと雪の上に座り込む。
「わたし、何を……」
そう言って後ろを振り向く。
飛んできた瓦礫で傷ついた守護者の姿と、血を吐き続けて蒼白になった水無月の顔。
「……わたしが?」
「露李様違いますっ」
海松が露李を抱き締める。
しかし彼女の身体は硬く、強ばっていた。
一筋、二筋と涙が伝う。
「いや……にいさま」
海松を振り払い、露李が水無月に駆け寄った。
銀色の髪も、金色の瞳も元に戻す術を知らない。
どう思われるかなど考える暇もなく駆け寄った。
無我夢中だった。
「つゆ、り……」
「にいさまっ、にいさまっ……ごめんなさい、ごめんなさい、わたしが、ごめんなさい、死なないでにいさま、いや……!!」
水無月が横目で露李を見、笑おうとしたのか唇の端が震えた。
「大丈夫……兄様は強いからね。死んだりしない」
「にいさまっ」
泣き出してしまった露李に困り果て、水無月が結を見上げる。
「……風雅。露李の、目を塞げ」
「露李は暗闇が怖いはずだろ」
「分かってる。……だからこそだ」
この子の、恐怖は。
根が深いから。それを俺は利用するんだよ。
「早く」
「………酷いやつだなー、お前は」
「知っている」
そう言って、水無月の手がぱたりと落ちる。
「に、にいさま……?」
すかさず震えだした露李を結はじっと見つめ。
「ごめんな、露李」
彼女の目を、覆った。


