「かなしいひとが……いるのは、かなしい」
呆けたように花霞のある方向を見て、呟いている。
「たすけて…たすけて」
「水無月!何が起こってる!?」
「露李はっ……花霞の声に共鳴している!!」
たすけて、と。
それは露李の心の声だ。
「にげよう……?」
逃げたかった、ずっと前から逃げたかった、それでも辛い環境から逃げなかった幼い露李の声だ。
「露李!行くんじゃねぇ!」
理津の腕から逃れようと身を捩る。
本当ならそんな子供の力に負けないはずだった。
しかし、
「離して……!邪魔、しないでっ!!!」
今ではそれは通じない常識だった。
露李の目が金色に変わり、髪が銀色に染まった。
爆風が吹きすさび、危うく飛ばされそうな所を懸命にこらえた。
もはや我を失った露李は、ふらふらと花霞のある蔵へ歩いていく。
「やめろ露李!!」
「すいとって……みんな、しあわせに」
水無月が叫ぶも、それは奇しくも自分が幼い頃に抱いていた考えだった。
──力を吸い取れば、この子は幸せになる。
そうしたものの、何も変わらなかった。
かえって力のない、一族の爪弾き者として扱われてきた。
「吸い取っても、それだけじゃ幸せにはならない!!露李!!」
叫んでも、届かない。
「つゆ、」
水無月がまた名前を呼ぼうとした刹那。
全身の力が抜けた。
そのまま雪に崩れ落ちる。
「水無月どうした!?」
結が駆け寄り、水無月の身体を起こす。
「なぜ貴様らは平気で──?」
そう言うのも叶わず、がはっと血を吐いた。


