「わたし、いかなきゃ」
憑かれたようにそう言い、露李が走り出す。
「あっ待てこら!そっちは危ねぇ!」
走ると言っても子供と大人の体格差は大きい。
すぐに理津に捕らえられ、すっぽりと腕の中に収まってしまう。
暴れるでもなく彼女は理津と疾風の顔を見上げた。
「かなしいの。ないてる人がいるの」
「ああ。だがそれはお前の手に負えるようなことじゃない。もしお前に誰かの声が聞こえているとしても、その涙は誰にも拭えない。今まで何億年も拭うことのできなかった涙だ」
疾風に諭され、ぷくりと頬を膨らませる。
その顔に疾風は少しだけ眉を下げた。
「頼むから、危ない目に遭いに行くようなことはしないでくれ」
「だって、ないてる人がいるなら慰めるべきだもの」
「言うねぇ。けどな、それでお前に何かあったらどうすんだよ。慰めるどころか悲しい思いをする奴を増やすだけだぞ」
理津にも言われ、しゅんとして俯いてしまう。
その光景を一部始終見ていた結が感心したような声をあげた。


