一方その頃、露李は疾風と理津に連れられて屋敷の庭を駆け回っていた。
沢山の草木が植えてあるそこを気に入ったのか、彼女はきょろきょろと周囲を見回している。
「はー…やっと撒けたか。ったく、あいつらうるせぇし身振りでけぇし邪魔なんだよ」
文句を言ったのは理津で、疾風も全くだと頷いて同意する。
普段の文月は気配を消すのが上手だが、すぐに結をからかって遊びだしては笑い上戸になってしまい、静はそれを鎮めるためにあたふたする。
かくれんぼには到底向かない状況から、二人が露李を引っ張り出して来たのだった。
「りつ、あれはなあに?」
「あ?んー、あれは書庫」
「しょこ?」
「本をいっぱい置いてるところだ。何か読みたいものとか調べたいことがあったら俺達はあそこへ行く」
「ふうん……露李、ごほん好きなの」
「へえ、字が読めんのか」
すっかり二人にも慣れ、露李は躊躇いなく話すようになった。
「はい。かあさまに、たくさん教わるんです。かつゆきもたまに教えてくれたけど、とってもこわいの」
「カツユキ?誰のことだ?」
「わたしのおせわをしてくれる人の、こどもなの。わたしより十三才大きいんです」
そうか、と疾風は怪訝な顔をして頷く。
「怖かったのか。そいつは露李のことをいじめるのか?」
「ううん。でも、よく叱られるんです」
叱られるようなことを、この子がするのだろうか。
二人は目配せをし、露李に続きを促す。
「よく叱られんのか?」
「はい。りつとはやてみたいに優しくないの…それにこれも」
露李はそう言って着物の袖をめくってみせる。
「わたしが泣いたから、おこられたんです。バツなんだって」
「なっ……これ」
二人が思わず目を見開いたのは、彼女の手首に刻まれた赤黒い傷だった。
刃物で切られたものではないが、縛られたような痕だ。
ところどころ切れたところが瘡蓋になっている。
「どんな風に怒られるんだ?」
懸命に怒りを押し殺して、疾風が尋ねる。
「あのね、くさりなの。おててを鎖で縛って、目隠しをするの。それで、上から吊るされるんです。反省するまで」
二人は拳を握り、こらえた。
あまりにも悲惨だった。
人に、ましてやこんな子供にする仕打ちではない。
「どうしたんですか……?」
赤と紫の気が発せられるのを見て、戸惑う。
「──いや」
そう言うのが精一杯だった。


