「大丈夫か」
委員長は少し仕事が残っていると言うので教室で待っていると、疾風と理津が歩み寄ってきた。
疾風は眉間にシワを寄せて、理津は怒ったような顔をしていた。
「ぜーんぜん大丈夫。楽しいしね」
おどけて答えた露李に、疾風はよりいっそう眉間のシワを濃くした。
「露李、深入りはするな。これは風花姫と花霞の問題だ。当初の目的を覚えているだろう」
「覚えてるわよ。私は彼を調べるために行動してる、これで満足?」
「姫さん、その言い様は気に食わねぇ。お前まさか……あいつに惚れたんじゃねぇだろうな?」
「何言ってるのよ」
大袈裟に溜め息をついてみせる。
本当に何という見当違い。
「神影さん?」
廊下から委員長の声が露李を呼ばわった。
「……行かなきゃ」
二人に背を向け、声の方向へ足を動かす。
「露李っ、」
「ねぇ二人とも」
耐えかねたように苦しさの混じった声色の疾風を遮り、言葉を紡ぐ。
「もし、私に何があっても。絶対に動かないで」
「は?何だよそれ──」
それ以上は答えず、走って教室を出た。
二人で支度を終えて、例の場所へ向かう。
一緒に歩きながら沢山楽しい話をした。
学校のこと、勉強のこと、友達のこと、家族のこと、お互いのことを。
露李にとって家族は有って無いようなものだ。
あんなものは家族とは呼べない。
同じ血が少し流れているだけの他人だ。
もっとも、露李には同じ血と呼べるかどうかも不明だが──血が繋がっていると信じて生きてきた。
だから、委員長の話は不思議で新鮮で楽しかった。
──私は、今から全てを壊す。
霜が美しくかかった赤い実が沢山なっている場所。
その赤い色を視界に入れて、立ち止まる。
「本当だ……幻想的で、無垢で、なんて……」
委員長が言葉を途切れさせながら感嘆の吐息を漏らす。
露李もその枝に触れながら微笑んだ。


