「心配かけてごめんね」
そんな表情をした覚えもないのに。
頭にぽんと手が乗る。
「先輩は強いから。心配してません」
「はは、本当に?それは負けられないなあ」
「負けてもらったら困りますよ」
「そうだぞ文月ー。お前が心配かけてどうすんだー?」
後ろから入ってきた結がにかっと笑う。
「そうだね。俺たちはいつも心配する側にいないとね」
「それもなんか微妙ですけど…」
しゅんとすると、またも襖が開く。
「露李先輩!文月先輩!お帰りなさーい!」
元気よく入ってきたのは静だった。
しかしその部屋の雰囲気に立ち止まる。
「……あれ?何か僕、間違えました?」
あわあわと困っている静に耐えかねたように露李が吹き出した。
「間違ってないよ、静くんっ!」
勢いよく抱き締められ、静の顔が真っ赤になる。
「あ、あの……!」
「もううっ、可愛いなあ!」
「ああああああ!!!」
叫んだのはもはや誰なのか分からない。
業を煮やした文月が黒い笑顔で歩み寄り、べりっと静を露李から剥がす。
「そろそろ離れようか、静?」
えー、と声をあげたのは露李だ。
「えーじゃねーよ!こんなウブな奴たぶらかしてんじゃねーよ!」
「たぶらかす!?」
「おー立派にな。一捻りだこんな奴!」
「そんな人を軽い女みたいに!」
「そんなことは言ってねーよ、静がウブなだけだ!」
「そういう先輩はとーっても経験豊富なんでしょうね!」
「ハイハイもうその辺で。何で俺が抑え役なんだろ」
「キャラじゃないですかね」
「キャラだな」
それぞれに話しているものの静だけは真っ赤でものも言えない。
いつも通りの風景だった。


