こんな感情、手に負えない。
あの分かりやすそうで分かりにくい幼馴染みのためなら全部を諦められた。
必要なら切り捨ててきた。
それなのに、今の自分はそんなことが出来そうにもない。
自分の気持ちだけは切り捨てられなかった。
一番近くで、あの世話の焼ける泣き虫な後輩の笑顔を見ていたい。
結のためなら何でも出来たはずなのに、露李だけは切り捨てられない。
どうして、とまた己に問おうとして、はたと気づく。
───ああ。そんなことか。
俺は“結なのに”じゃなかった。
“結だから”諦められなかった。
ずっとライバルだった。
何に関しても、競い合いながら育ってきた。
だから、負けたくない。
「……帰ろう」
きっと、帰りが遅くなればあの子は心配する。
ただの自惚れかもしれないが、そう思えることが彼女が文月たちを大切に思ってくれていることの証拠だった。
浅葱色の気が文月を纏う。
この瞳と同じ色を美しいと言ってくれた彼女に、早く会いたい。
今度は意図的に力を使う。
蔓が伸び、文月を家まで運んだ。


