【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく

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「それで、今日の本命は何だったのかな」


日が暮れかけて橙の光が辺りを照らし出したとき、委員長が切り出した。


送ると言ってくれた彼の隣を歩きながら、露李は花霞の邪気が濃くなってくるのを感じた。

蔵は厳重に封印してあるし、露李も平気だが、ただの人間ではきついかもしれない。


問いには答えずここで良いよ、と足を止める。


「バレンタインのチョコレートを渡したくて」


そう言いながら昨夜頑張ってラッピングした包みを渡した。

彼の目が少し見開かれ、嬉しそうに細められる。


「わあ、嬉しいなあ。神影さんから貰えるなんて。君、学校では高嶺の花だってこと知ってる?」


「高嶺の花!?私が?」


頬が熱くなり、口許が緩む。


「うん。美人だし、清らかな感じがしてね」


「美人……清らか……」


普段言われたことのない言葉を並べられ、恥ずかしくて下を向く。

守護者達にしろ、水無月を除いて皆いつもは少しは褒めてくれても良いのにと思っていたが、実際に褒められてみると爆発してしまいそうだ。


「ありがとう。これは義理ってことで良いのかな。それとも───好意?」


不意に委員長の顔が近くなり身体が固くなる。

耳元で囁かれ、力が抜けるような感覚が露李を襲った。

彼の後ろの木の枝がギシリと音をたてる。


「委員、長……」


きらりと彼の目が光り、囚われたように動けない。

潤んだ瞳が近づいてきて────。


「おいてめー、ここで何してやがる」


聞き慣れた声が空気を貫いた。

はっと委員長が露李から身体を離す。


「こーんな場所で何しようとしてたんだー?見過ごせねーなー」


気楽を装った声とは裏腹に、姿を現した結の目には冷たい光が宿っていた。


「結先輩、何してるんですか」


「お前がおせーから皆心配してるっつの!神事があるの
忘れたかぁ?」


……とんと記憶にない。

首を傾げつつも、すみませんと謝る。


「それにな、やべーぞあれは。そろそろ限界だ、そいつ離してやんねーことには…」


結が苦笑いして委員長の後ろを見、露李もそこでピンと来た。


「委員長っ、避けて!」


思いきり委員長を突き飛ばすと、今まで彼がいた場所にこれまた見慣れた姿が現れた。


「露李、おかえり」


今まで物騒なことを企んでいたとは思えない笑顔で佇んでいるのは、言うまでもなく水無月。


「ただいまー……じゃなくて!危ないでしょ、迎えに来るなら穏便にしてくださいっ」


「ごめんごめん。あ、こちらが例の彼?」


何も知らない人が見れば王子様と言われそうな容姿の水無月が委員長に笑顔を向ける。