“留学”から帰ってきてからというものその間に色々なことがありすぎて、露李の中の学校の記憶はところどころ抜け落ちてしまっていたようだ。
「もう学校には慣れた?大変だったね」
どこか店に入ろうということで歩きながら、初日の彼を忘れそうなほどに穏やかな口調で委員長が問う。
なかなかに洒落た格好をしていた。
いつもかけている眼鏡もフレームを変えている。
「そうなの。私転校してばかりだから慣れてるんだけど、今回のはちょっとね」
すらすらと口から出てくる嘘にはもう驚かない。
嘘に慣れてしまった。
「ところで今日は何かな。用があるとか言っていたけれど」
「秘密!最後に教えてあげるわ。ねえ、あそこ入ろう」
委員長専用に作ったチョコレートを渡してしまえば今日の予定は終わったも同然になってしまう。
適当に話を変えた。
看板の出ている店のメニューが美味しそうだったのもあるが。
そうだね、と委員長が相槌を打ち二人はまた歩を進める。
「何かお礼が出来ないかなと思ってるの。でも学生ができることって少ないから」
「なるほどね。でも僕は良いよ、そういうことがあるって分かってて委員長になったんだから」
「そんなわけにいかないよ。でも今時いないよねえ、そんな案件も組み込んでクラス委員長なんかになる人」
「失礼だな、時代遅れって言いたいの?」
「違うわ。珍しいなって」
「珍獣扱いか」
「案外ネガティブね……」
こうやって話してみると思いの外に楽しく、普通に会話を続けられることが不思議だ。
この人には何もないのではないかと思ってしまう。
目当ての店に辿り着き、中に入る。


