露李はふんふんと鼻唄を歌いながら、足取り軽く道を歩いた。
神社を抜けるまでの道のりは長いが、それを越えると待ち合わせ場所へは近い。
余裕を持って家を出たし気楽に歩いても大丈夫だろう。
それにしても、と自然に笑みが込み上げてくる。
皆のあの顔はなかったなぁ。
久しぶりに打ち解けた顔だった。
仕方のないことかもしれないが最近の守護者たちは妙に慎重で、どこかよそよそしかった。
ふとした瞬間に露李の顔色を伺っていたり、とにかく居心地が悪く。
露李にとっても神という存在は漠然とし過ぎていて、驚きこそしたが明確な感情が生まれてこなかった。
巫女の里で培った神への信仰は風花姫になって神影神社のあるこの地へ来てから尽く打ち破られている。
だから、今という瞬間を大切にしたい。
そう思っていた。
何かジョークプレゼントでもあげようかと思い付いたのがこれだ。
バレンタインのチョコレートなら美しく出来たものを既に用意してある。
またにししと笑っている間に、変化破りの術がかけてある場所へ辿り着いた。
いつもここで守護者たちの髪色や目が変わるのが面白く、いつも見るのが楽しみなのだ。
自分は全くもって変わるところが無いのでつまらない。
栗色の髪に茶色の目、神影特有の色。
そう思っていたのが、まさか夏焼の流れを有する者の色味だったとは思いもよらなかったけれど。
時が経つとともに色々なものを受け入れてしまった。
もう自分はただの女子高生でも巫女でもない。
受け入れなければならないことが多すぎる。
ならば受け入れてやろうと誓った。
だからこうして───。
「おはよう、委員長!」
「おはよう神影さん」
一歩間違えばハニートラップ紛いのことだって、きっとできてしまう。


