「良いんです。私もごめんなさい、朱雀さんに八つ当たりみたいなことして」
朱雀はどこが気に障ったのか少し顔をしかめた。
「あの、何か」
「朱雀さんとか気持ち悪いから止めてくれないか。疾風で良い。あと敬語も。他のヤツとか、理津のことも呼び捨てタメ口で良い」
露李はぽかんとしていたが少し間を置いて、ああ、と頷いた。
「ありがとう」
少しだけ露李の表情が和らいだのを見て安堵する。
神秘的な栗色の髪がさらりと揺れた。
「昼は裏庭で守護者と食べる。学校は邪気に囚われやすい奴等がわんさかいるからな。そんなやつに拐われたりしたら本当にまずい」
急に事務的な口調になって朱雀が説明する。
「裏庭ってそんなのありまし…あったっけ」
タメ口に馴れずに口ごもりながら尋ねた。
裏庭らしきものを見たことはない。
「何というかあれだな、実際は人がいない校舎裏ってとこか。なかなか日当たりがいいとか言って結先輩が喜んでた」
風雅なら無邪気に喜びそうだ。
そうかそうかと納得。
しかし──突然、足を縛られるような感覚に襲われた。
「何っ…」
情けなくも無防備だったために視界が反転する。
「……理津、何のつもりだ」
朱雀の低い声。
濃い紫の光が足を縛りつけている。
水鳥が術を使ったらしい。
「主がこんなんで倒れるなんざ、俺達も油断できないなぁ?疾風」
しゅるりと音がして拘束がほどけた。
「立てないのか?それとも俺にいじめられたいのかどっちかな、不様なお姫様」
水鳥が薄く笑いながら半身を起こした露李に手を差し伸べる。
悔しさで顔が赤くなった。
「いりません」
「そんな表情してるわりには弱──」
水鳥が言いかけるが、
「おっせーよお前ら!」
大声が響き渡った。


