秋雨たちが発つ日が来た。
それまで何事もなかったかのように露李は明るく振る舞い、守護者たちも戸惑いつつそれに倣った。
だが、決して不安は消えない。
露李の明るさに誰もが胸を痛めた。
どうすれば良いのか、どうしたら。
そんな堂々巡りの問いばかりが心に浮かんでは消える。
「皆さん、元気でいらしてくださいね」
見送りに出た露李が玄関先で笑った。
「お世話になりました、姫様」
秋雨が一礼し、他も同じように頭を垂れる。
美喜までもがお辞儀をしたのを見て露李はあわあわと走り寄る。
「やめてよ美喜、気持ち悪い」
「ひっどいわね。させなさいよ、これくらい」
ぎゅっと露李を抱き締め、拗ねたような声色で言う美喜にはっとする。
少し目を見開いてから、露李はふっと笑った。
「──これが最期かも、しれないもんね」
それには答えず、美喜の腕の力が強まった。
「洒落にならないわよあんた」
「大丈夫だよ。私、運だけは強いから」
湿った空気を振り払うように、勢い良く露李が美喜を離す。
そして一転して風花姫の表情を浮かべた。
秋雨たちが跪く。
「皆さん。これが私の最初で最後の命令です」
「はっ、風花姫様」
「貴方たちはかつて自らが尽くした主、春月 扇莉の真の姿を信じなさい。そして──私のことは忘れて、自分達の幸せを見つけて下さい」
思わず秋雨たちが顔を上げた。
露李は柔らかく微笑んでいる。
「ここ数日、気を遣って下さっていた事くらい小娘の私にだって分かります。私は大丈夫です。まぁでも、いつか気が向いたらここに立ち寄ってくれるも嬉しいです」
行ってください、と促され一行が立ち上がる。
「姫様、また会う日までお元気で」
口々に別れの言葉をかけられ、にっこりと笑う。
それはぞっとするほどに美しく───
「……さよなら、皆さん」
──残酷だった。


