露李はもちろん、結たちにとってもそんな風に割り切れるような問題でないことは明らかだった。
けれど結は笑う。
現状、出来ることをするしかないというのは正しい。
力を操る訓練をしてきた守護者たちと違い、自分の力を制御する術を露李は持たない。
紋で結界のもとを創ることはできても、力がどこまで強力で何ができるのか、露李には分からない。
いつ暴発するかも分からない。
そんな力を使い続けるのには抵抗がある。
いつか皆を殺してしまうかもしれない。
─だって私は自分の母親だって殺したんだから。
強くなりたいと貪欲に望んだ記憶だけが露李の頭にあった。
一番古い記憶だ。
けれど今までそれがいつのものなのか分からなかった。
神影家の直系だと信じこまされていたし、疑う余地もなかった。
それは、少しでも未琴の愛だと思っても許されるだろうか。
露李自身に向けたものでなくとも良い。
憐れな一人の子供に向けた、人としての感情の一部分だと。
愛だと思っても良いだろうか。
そんな風に思い出すほど、露李は未琴のことが忘れられなかった。
どんなに酷いことをされても、閉じ込められても、それが母親の─未琴の所業だとは思わなかった。
いつかきっと助けに来てくれる、これは私が悪い子だから、そんな風に信じて。
「露李。お前は、何も悪くねーよ。それだけは忘れるな。俺達への引け目なんて一切要らない。今の俺達は守護者だからお前を守るんじゃない。露李だから守るんだ」
力強くそう言ってくれる結に、大きく頷く。
鬼なんて、未だに信じられない。
けれど、皆がそう言ってくれるなら自分を認められるような気がした。
寒い中でも、心は温かい。
厳しい冬でも花が咲いたように笑えるこの時間を、守る。
最初は世界のために使命を果たそうと思っていた。
でも、それは違う。
そんなに漠然としたものでは、きっと人は頑張れない。
以前の露李も、守護者も、水無月も。
世界など愛してはいなかった。
その瞬間に生きていることが苦痛なら、滅んでしまっても良いと思っていた。
痛みを感じなくて良くなるなら、それで良いと思っていた。
自分が愛する誰かが生きる世界を守りたいと願う。
それは神への冒涜なのだろうか。