「露李さま?」
「あ、ううん何でもない…美味しい、すごく」
母に食事を作ってもらったことは少なかった。
しかし、その味はよく覚えていた。
覚えているのに、母と呼び慕った者はもういない。
いないのに。
「あー、食べ終わったら一回家帰んねーとなー」
「そうだね、まぁでもまだ早いし大丈夫でしょ」
「先輩自転車ですか?」
「まーな!俺の特注だ!」
「何なら乗せてって下さいよ俺の荷物」
「パシりか俺は」
すみません、と即座に負けた朱雀を見た水鳥がニヤリと笑った。
「結の自転車が特注なのはその小っせぇ身体のせいだろ?」
「…疾風、歯ぁ食い縛れ」
「何でですかとばっちりっすよ!」
楽しげに守護者たちが話しているのを眺める。
そして、ある疑問点。
「あれ?皆さんここに住んでるんじゃないんですか」
昨日もいたし、今日の朝も。
「そんなわけないだろ。昨日は姫の帰還と任命式があったから泊まっただけだ」
呆れたように朱雀が焼き魚を口に放り込む。
「あぁそれから。これから毎朝迎えに来るから」
「毎朝!?」
思わず叫んでしまい、ばっと口をつぐんだ。
驚いたりすると感情が表に出てしまうのが一番の欠点と一族中に言われてきたために、露李にとって感情を表に出すのは罪だった。
「何か不満か」
朱雀は黙々と朝食を食べ進めていく。
「いえ、そんなわけでは…」
しゅんとうつむいてしまった露李に知恩が机の向こうから柔らかく微笑む。
「僕らのことは気にしないで下さい」
「そうだよ露李ちゃん」
やっぱり優しい。
「ありがとうございます」
これからの生活に不安はあっても、何とかやっていけそうな気がした。


