昂っていた露李の感情は冷めきってしまっていた。
戦うことが生まれてきた意味。
そう考える守護者たちの気持ちが今になって身にしみた。
─だって。戦っても終わらないの。
誰かを傷つけて傷つけて勝ち取っても、悲しいことばかりだ。
そんなもの。
「春月の名に懸けて─出でよ」
有明が唱える。
余裕を無くした有明だが。
「…私の弱点、覚えてくれてたんですね」
目が見えなくなった。
幻術を使ったのだろう、目の前が真っ暗になったのだ。
思わず膝がくず折れる。
昔からのトラウマといえど─不便だな。
手が小刻みに震えるのはもう自分ではどうしようもないのだ。
本当に何でもありだな、この人、と感心しながら感覚を研ぎ澄ませる。
同じ鬼の一族でありながら、何という力なのだろう。
見かけは同い年でも、相当な年数を生きてきたというのだから、当たり前と言えば当たり前だが。
でも、そんな有明の必死さが今はもう馬鹿馬鹿しい。
霧氷がそこにいるかさえももう、分からないのに。
それが霧氷だと言えるかさえも定かではないのに。
「私を花霞に捧げて、何の得になるっていうんですか。あんな邪気の塊になってしまったモノが、本当に霧氷さんだって言えますか」
「黙れ」
チャ、と喉に刀が添えられるのが分かった。
冷たい感触。
「お前に何が分かる…この私の、何が」
切っ先が震えている。
震える度に喉を引っ掛かれるので恐ろしいことこの上ないが、露李はただ微笑んだ。
「だって、私は殺したもの」
「何、を言って…」
「何をって。私は殺したんです。貴方に獣化させられた守護者の皆を。それが最善だとあのときは…あのときは思ってた」
感情に任せていたのが大半だが、それでも。
「最善な訳ない。友達を殺すのが、最善なはずない。もっと方法があったかもしれない、それでも私は殺したんです。だって私にはアレが…もう皆には見えなかった」
有明がどんな顔をしているのか分からない。
だが、まだ露李を刺すつもりはないらしい。
一つ一つ言葉を紡ぐ度に溢れる涙を拭うこともできず、行き場のない感情をただ持て余すばかりだった。


