「そういうことで、よろしいですね?有明様」
「良いだろう。露李姫、終わりなど来ないことを思い知らせてやろう」
有明の捨て鉢な言い草に、宵菊がまた暗い顔で俯いた。
露李が静かに自分を見ているのに気がつき、すぐにいつもの勝ち気な表情に戻る。
「それじゃあ私のお相手は貴方で良いかしら?」
言わずもがな、結だ。
指名され、にやりと笑う。
「水無月が認めるようなお相手なんでしょう?相当なやり手なんでしょうね」
「言っておくけど宵菊、風雅は一筋縄じゃいかないよ」
水無月が無表情を小揺るぎもさせずに宵菊を見つめる。
しかしそこで嬉しげな声をあげたのは結だ。
「お前もやっと結様を認めたか!」
「調子に乗るな。早くしろ」
水無月は苦々しげにそう言い、露李の方を振り返った。
随分と憔悴しているようだ。
冬だというのに汗をかいているが─それもいずれ冷えるだろう。
身体が冷えれば動きも鈍くなり、負ける確率は高くなる。
フォローする気ではあるが、それを有明に見破られては本末転倒だ。
着物で動くことは露李も慣れているだろうから良しとして、やはり気になるのは体調だ。
せっかく綺麗に結ったというのに、彼女の髪はもう乱れてしまっている。
その腰まである銀の髪をさらりと撫でると、露李は朧気に微笑んだ。
「大丈夫だよ、氷紀」
「信用ないからなぁ。自分のことたまには考えなさい」
「私は結構勝手だけど」
「あのなー、」
「分かってるよー。もうー、お母さんみたい」
ふふ、と笑う彼女の頭をポンポンと叩いてから、一歩下がる。
「何でもお見通しなの、ずるいよ」
──だって、お前のことだから。
心の中で呟く。
感情に任せて戦った後に、結が傷つかないように。
守護者が道具ではないことを、証明するために。
そして結が自分を見失わないように。
露李がそう思っているのは明白だった。
結の敵を変えるだけでも、憎しみに駈られないようにする効果はあると、自分から有明との戦いを名乗り出たことは、もはや予想内ですらあったのかもしれない。


