「俺が、俺だけが生きるとか本当…ありえねー」
「ゆ、結先輩…?」
突然低くなった結の声に、びくりと露李の肩が跳ねた。
「有明だっけ?俺があんたを、殺してやるよ」
皮肉げに笑った結の顔が、恐ろしく歪んで見えた。
憎しみに溢れ、いつもの彼ではない。
「お前のような妖怪風情に、私が殺せる訳がない」
ゆらり、結の身体が翡翠に光った。
しかしそれはいつか見た綺麗な光ではなかった。
「ダメっ、結先輩!!」
「離せ、皆がこんなになって、許せねーんだよ!!こいつも、俺も!!」
「だめです、先輩まで獣化しちゃいますよ!!」
「やめておけ風雅、このババアに敵う訳がない」
「先輩!!」
「じゃあどうしろって言うんだよ!!」
俺だけが戦えなかった。守れなかった。
じゃあどうしたら。
─分かってるの、結先輩が言いたいこと。
露李は一人、唇を噛んだ。
こんな余裕を無くした先輩、見たことないから。
こんなの先輩じゃないって思うから。
きっと、皆、こんな結先輩を望んでないと思うから。
だったらやるべきことは一つだ。
露李が一歩前に出る。
「─私が有明様と戦います」
「ちょ、何言ってるのさ露李!」
ただでさえさっきの戦いで霊力を消耗したのだ、無傷の有明と対等にやりあえる訳がない。
「だって、結先輩に戦って欲しくないから」
「何だよそれっ…俺は戦うために生まれてきたんだ、だから─」
最後まで言うことは出来なかった。
露李の金色の瞳が、許さないと語っていたからだ。
「戦うために生まれてきたなんて言わないで下さい。違います。結先輩──いえ、風雅家頭領、貴方には私を守る義務があります。簡単に命を捨てることはこの私が許しません」
そう言った後で、少し考えるような仕草をして、露李はまた口を開く。
「風花姫命令ですっ」
ぷ、と結が吹き出す。
「絞まらねーな、お前。───仰せのままに、我が風花姫」
─敵わねーな。
そう思ったことは秘密だ。


