「俺は本気だから、鬼の姿で戦ったのに。いつもそうだよねぇ、秋雨くんは」
「何を言っている…」
首に突きつけられた刃を睨み、秋雨が問う。
何って、と水無月は笑い、銀の髪をさらりとかきあげた。
「いつも無表情で得体が知れなくてさあ。でも俺は分かるよ。─君が、どうしてそうまでなって忠誠を誓うのか」
「やめろ、言うな…!」
切羽詰まった秋雨の声に気を良くしたのか、水無月は少しだけ怒りを収めたようだ。
今度は困ったように笑う。
「俺はお勧めしないけどなぁ」
二人の言葉が露李には理解できない。
しかし、水無月が何か秋雨の弱味を握ったことは分かる。
息を調え、まだ月を背に浮かんでいる有明を見上げた。
「有明様。これで本当に終わり、でしょう?」
有明が息を飲んだ。
露李の瞳を見たまま、身動きもしない。
「終わりなど無い…終わりなど来ない。睡蓮が、星月夜が、秋雨が…お前たちに負けるはずなどないんだ…」
「まだ言ってるの?馬鹿だねぇあんたも」
「水無月、その口のきき方をお止めなさい」
殺気だった宵菊を水無月は鼻で笑うだけだった。
「若作りババアも宵菊も、懲りないねぇ。……串刺しにしてあげようか?」
「無礼を──!」
「無礼はどっちなんだろうねぇ、負け犬。笑えるよ」
負け犬にいち早く反応したのは有明だ。
唇を噛み、恨めしげに水無月を見た後、また露李に目を戻す。
「負け犬…そうだよ、私はいつも負け犬だ」
「あ、有明様…?」
自嘲するような口振りに少し戸惑った。
負け犬なんて、有明様には一番遠いのに。
気高くて綺麗で。
だが、露李の目に映る有明はそれとは違っていた。
「負け犬だろうが、何でも良い…!霧氷様を、救うことが出来るなら!!」
狂ったように叫んだその時、パキパキと何かに亀裂が入る音がした。


