「そんなもの…」
「覚悟が無いなら邪魔しないでくれるかな」
切って捨てるような物言いに秋雨の無表情が揺らぐ。
「殺さなかっただけマシだよ」
にこりと微笑み、水無月が地上へ向かう。
星月夜は後で始末しよう、と決めてから露李の方へ。
疾風に浴びせた拳と同等の力で殴られたなら、ずいぶん酷い怪我なはずだ。
水無月だからこそ星月夜の戦い方を知っている。
一般的な成人男性が修行を積み、かつ、有明の力を借りた上での拳だ。
男が女を殴るという行為に普通なら有り得ない力が宿っているのだ、耐えられるものではない。
打撃に圧をかけられるのが星月夜の能力だ。
「露李!!」
「氷紀…?」
露李の目に、必死の形相で下りてくる水無月が見えた。
─立たなきゃ。
また心配させた。もう心配かけないって誓ってたのに。
まだ気持ち悪さが残るが、足に力を入れる。
星月夜が追撃を仕掛けて来なかったのが唯一の救いだ。
しかし、二度の衝撃は身体的にきつかったらしい。
何をするにも重く、上手く動かない。
悔しさに歯を噛みしめた、その時だった。


