「何だ?」
何だ、と言ってから少し後悔する。
何だも何も、今はそんな呑気なことを言っている場合じゃない。
「何だじゃないよ、どうしたの」
心配そうな露李と、そっぽを向いているが疾風の返事を待っているであろう水無月。
「…いや。何でもない」
何でもないって何よ、大丈夫なの?と胡散臭げな顔をして言われる。
言える訳がない。
─嫉妬、とか。俺らしくないだろうが。
「ああ、ちょっと貧血だ」
「貧血の守護者がいてたまるかっ」
健康管理は、海松に引くほどやってもらっていた。
「嘘だ。ぼーっとしてただけだ」
そう答えると、また怪訝そうに睨まれた。
すごい眼光だ、と変な所に感心する。
だが、女として、そんな威圧感のある顔はどうだろうか。
「…大丈夫なら良いけど」
「おい朱雀。露李に心配させるな、心労を増やすな。露李ではなくこの俺を通してから伝えろ」
それが水無月なりの気遣いなのだと分かるのに、時間はかからなかった。
案外優しいこの男は、少しひねくれた言葉で話すのだ。
「ああ、悪い」
自然に口元が弛むのを抑えて、母屋の方に目をやる。
あそこで何かが起こっているはずなのだ。
「行こう」
露李の声を合図に、屋根瓦を蹴った。


