「大丈夫、露李?」
玉砂利の上に立ち、屋根を見上げる。
日本家屋は日本人の体型に合わせて、総じて天井が低いが、何の踏み台もなしに跳び乗れる物でもない。
そしてけして大柄とは言えない露李だ。
「大丈夫。頑張る」
頑張るってな、と疾風と水無月が思ったのは言うまでもない。
すると、隣でシュッという衣擦れの音が聞こえた。
水無月だ。
いとも簡単に屋根に乗り、手を差し伸べる。
「はい、無理そうなら掴まって」
無理そうなら、と付け加えた所が、露李の性格を熟知している。
負けん気が強い彼女はムキになるに決まっている。
機嫌良く返事をして屋根に跳び乗る露李。
易々とこなしていたが、普通の女子高生ができることではない。
涼しい顔に嬉しさが滲んでいる。
よくできました、と頭を撫でられている露李を見てから疾風も跳び上がる。
スタッカートの効いた音。
俺だったら、と答えのない問いを自分に投げかけた。
──あいつにあんな風に手を差し伸べられただろうか。
「あれ、疾風どうしたのボーッとして」
無理だな。早く乗れ、とか言うだろうな。
自分のことであるはずだが、妙に客観的に考えてしまった。
「はーやーて!」
我に帰った。


