「はあ?何だよ、泣いてないじゃないか」
血相変えて飛んで来た疾風は、盛大に溜め息をついた。
「お前、何、兄上に嘘泣き披露してるんだよ」
「私が悪いの!?」
理不尽だ。
「だって姫様すっごい泣きそうな顔してたんだもん」
したかもしれないけど。
あんな話されて辛いと思うなって言う方が酷くないですか。
口には出せない文句を目で訴えるも、もちろん景真は気づかない。
「兄上、俺は良いが、一番嫌なやつを敵に回したぞ」
良かったーと安堵する景真の背後を見ながら、疾風が無表情で告げる。
「え、何?ってうわ!」
「貴様、主を泣かせたのか」
もはや邪神のような形相だが、水無月そのものだ。
「ちが、泣かせちゃったかもとは思ったけど、姫様泣いてなかった!」
「ほう、では泣かせるつもりはあったのだな?」
「違うってば、うわあ!」
「この剣で貫かれたいとは、変わった趣味を持っているな」
「持ってない!持ってない!」
今度は景真が追い回されるハメになったが。
「あー、兄様」
「ダメだよ露李。甘やかしが過ぎる」
そうにっこり笑って颯爽と駆けていく水無月。
…元気だ。
何だか疲れた、と再び縁側に腰を下ろす。
「ったくお前ら何やってるんだ」
疾風が溜め息混じりの問いに、露李も首を傾げる。
何と言われれば。
「……さあ?」
「何だよ、今の間は」
昔話聞いてましたとか言えない、と露李は難しい顔をする。
「は、疾風の馬鹿」
考えた末の言葉がこれか、と自己嫌悪。
疾風はまた呆れたように視線をよこし、どさっと後ろに倒れこむ。
「あのな、馬鹿でも良いけどな」
「え?」
「お前、何かされたらすぐ言うんだぞ」
身構えて拍子抜けした。
実の兄にそれって、と笑いがこみ上げる。
「ふふ」
「何だよ気持ち悪い」
「うるさいなぁ。それにしても、あにぃにその言い方は無いんじゃないの?」
「お前…」
むくりと疾風が起き上がったのを見て、また笑った。


