ちらりとそちらに目をやる。
景真は目を合わせようとはせず、正面を向いたままだ。
「姫様はタカビーな弱っちい女の子じゃないし。何より疾風が笑ってるんだよなぁ」
──これは相槌を打つべきなのかな。
ただ黙って景真を見つめる。
「気づいてるかもしれないけどさ、朱雀家の人って、濃淡に差はあれど大体が赤髪なんだよねー」
「…そうですね」
気づかないわけがない。
びゅう、と風が木々を揺らした。
「疾風はさ。生まれた時からあの髪色なんだよ。まあでも家の人は、っていうか、疾風に近しい奴は別に何も言わなかったけど、他の家がうるさいのなんのって」
「それって、」
葵さんのことですか。
と、聞くまでもなく、景真は横目で露李を見て、くすりと笑った。
「そ。あの人、血とか伝統とかにうるさいから。あの息子っちも可哀想だったよ小さい頃は。長男だからって屋敷に隔離されてさ?ホント、有り得なーい」
疾風を見る目、景真を見る目。
葵の冷たい視線がふっと脳裏に蘇った。
露李だって忘れられない。
あの目が自分に向けられることを想像するだけでも、ぞっとする。
里で忌み嫌われていたからこそ分かることだ。
その辛さは当事者にしか分からない。
軽い口調の景真も、自身の眉間に皺が深く刻まれていることに気づいていないのだろう。
──どうして。
頭の中で問う。
─どうして、花霞に関わる人達は皆、傷つかなきゃならないんだろう。
自分のことを言いたい訳じゃない。
そうではなく─ただ、誰も傷つかないで欲しいと願うのは、傲慢だろうか。
「大きくなるにつれて、どんどん笑わなくなってさー。俺とか、頭領の皆様の前でも最低限になっちゃって。仏頂面キングだよもう。…なのに、久々に会ったらすげぇ笑顔なの」
ちょっと悔しいかな、と景真はまた露李に笑いかける。
が、すぐに困った顔に変わる。
「え、ちょ、泣くの?ここで泣くの?ねぇどうしよ、えっ」
「何ですか、泣いてませんけど」
露李の目は潤んでもいないのだが、姫様泣かせちゃったどうしようっ、と景真はあたふたと辺りを見回した。
処刑もんだよこれっ、と呟いた後、何かを思いついたように目を見開き。
「疾風ぇー!どうしよ、姫様泣かせちゃったんだけど、どうしよーー!!」
自爆した。


