疾風はたった一人の弟だ。
景真は、露李を引き寄せて威嚇する疾風を温かい気持ちで眺めていた。
いつからか、笑顔を忘れてしまったかのように無表情だった疾風。
─どうにも出来ないことだった。
殆どが彼の容姿によるものだったから。
朱雀家の者の髪は、全て紅薔薇のような真紅だ。
「そんなことをしてただで済むと思っているのか、朱雀」
「俺を殺しても守りが薄くなるだけだぞ」
ついには庭先に出て言い合いをしだす始末。
「殺されたいのか、と聞いている」
「そんなわけないだろう。守りが薄くなって危険に晒されても構わないなら、止めないが。反撃しないとは言ってないぞ」
これでは堂々巡りだ。
もう止める気も無くなった景真は、開け放された縁側にどっかりと腰を下ろした。
露李もするりと猫のように抜け出してきて、彼の隣へ座る。
「全く、物騒な人たちですねえ」
いや、君のせいだけど、と突っ込みたくもなるが、敢えて言わなかった。
「姫様も、何て言うか鈍感だね。あそこまで大事にされてて気づかないって」
不器用な疾風が、あんなに露骨に態度に出すとは。
いや、不器用だからこそ分かりやすいのか。
疾風本人も気づいていなさそうだが、分かりやすいにも程がある。
「え?気づいてますよ」
思いもよらない言葉にずるりと手が滑った。
女子怖え、と思ったことは口が裂けても言えないが、それにしても、だ。
「何、何なの、姫様は小悪魔ちゃんなの?」
「何の話ですか。景真さんが言ったんじゃないですか。大事に守ってもらってることくらい分かってますよ。そこまで鈍感じゃありません」
これまた斜め上。
景真の苦笑いが深くなる。
「それがねー、鈍感だと思うけどねー。可哀想だなあ、あの二人。一番不器用でしょどうせ」
「不器用さでは結先輩の方が上だと」
「…分かってないか。大変だなぁ」
そういうことじゃないんだけど、まあいいや、と謎な言葉を残し、景真は正面を向く。
何だか掴めない人だなあ、と露李は首を傾げ、また水無月と疾風の観戦に戻る。
未だ口論している辺り、もういっそ仲良しだ。
「でもさ。楽しそうで良かったよ」
ニヤニヤしながら見ていると、隣から一人言のような呟きが聞こえた。


