胸に手を当てている風花姫を最後に見てから、海松は台所へと急いでいた。
自室へ戻って着物に着替え、流しの前でやっと一息。
「…変わった風花姫さまです」
声に出すつもりは毛頭なかったが、知らず知らずに漏らしていた。
風花姫は周りに守られるべき特別な存在。
彼女が守るものは《世界》そのものであり、人ではない。
今までにも守りたいと思った姫はいたかもしれないが──あれほど明確に宣言した姫など今までいなかった。
自分やそして自分の祖先が仕えてきた姫─未琴を悪く言うわけではないが─は、もっと高圧的で、どこか儚かった。
そんな目をしていた。
海松も幼少時に女童として未琴に仕えていたが、気さくとは言い難い。
しかし、露李の態度は今までとは全く違っていた。
「あの方なら…」
皿を手に、ほのかな笑みをたたえる海松だった。


