気まずくなってしまった。
いや、澪子は顔色一つ変えていないのだが、露李は困惑した表情で彼女を見た。
「澪子さん、あ…」
どうしたら良いか分からない。
「私は、風花姫様が嫌いです」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
しかし一度理解すると、驚いたことに、全く動揺しなかった。
必ずそんな人もいると分かっていたからだ。
風花姫が先代たちの命を奪ったと言っても過言ではないのだから。
まさか潔く宣言されるとは思わなかったが。
「…そうですか」
「だから、殺して下さい」
は!?と声を上げそうになるが、やっとのことで堪える。
ぶっ飛んだ思考回路の持ち主だったか、と認識を改めなければいけない。
「私が、そんなことで貴女を殺すとお思いですか」
口では冷静だが、内心はプチパニックの露李。
「私は今、敬うべき風花姫様に無礼を働きました。ですから殺して下さい」
澪子は正座のまま淡々と告げる。
睨むような眼差しに狼狽える。
なぜ、澪子がこんなことを言うのか。
「殺すわけないでしょう。貴女を殺せば、皆が悲しむ。無駄な殺生は致しません。第一、私は貴女を殺す理由がありませんから」
張りつめた空気。
お互い穏やかな面持ちでいるのに、何かを戦わせていた。
やがて、澪子がゆらりと立ち上がる。
「どうして殺してくれないのですか」
そう呟く彼女の着物の懐からギラリと光る、鋭利なもの──。
次の瞬間、ガキンッと金属が触れ合う音が響いた。
露李の小太刀と澪子のそれがギリギリとかち合い、拮抗している。
「殺して!」
「何故そこまで!」
「貴女が私に傷をつければっ、私が貴女を殺す理由ができるわ!」
澪子の言葉に目を見開く。
しかしそれは一瞬。
露李は彼女の言い分を一笑に付した。
彼女の顔には、先ほどまでとは桁違いに余裕な笑みが貼り付けられていた。
「私を殺して、皆を守護者から下ろして、それで。その後はどうするつもり?」
澪子の瞳が揺れる。
「花霞こそ、皆を縛るもの。あれが有る限り、死から免れることはない。私を殺して、貴女は皆と生きられると思ってるの?」
ねえ、と呼びかける。


