「それは、今もですか?」
文月は表情を小揺るぎもさせず、ただ露李をじっと見つめている。
「今も私が嫌いですか?」
「憎いって言ったら?」
返された単語に唇を噛む。
憎い、とそれを頭の中で反芻させた。
「それじゃあ、殺して下さい」
そこで初めて文月の表情が変わった。
驚いたように目を見開く。
「ただし、タダでは死にません。戦いましょう」
「露李ちゃん、」
「貴方と戦える力を私は持っています。…まぁ、持ってなくとも戦いますが、全力で貴方と闘います。何もしないで使命を放棄するほどクズじゃないつもりですから」
言い切ってから下を向く。
やっぱり、人に憎まれるのは辛いから。
泣いてしまいそうなのが本音だ。
「──ごめん、露李ちゃん」
ふと聞こえた声に顔を上げた。
困った顔の文月がいた。
そこに冷たさはない。
「もう降参。憎くもないし嫌いでもないよ」
状況が分からなさすぎて、何も言えない。
「過去のことを話すつもりで言ったんだけど…」
「え!?」
「ごめん」
「嘘なんですか!?」
「いや、殺そうと思ってたのは本当。最初はね」
「じゃあ今は…」
身を乗り出す露李。
「訳も分かってない弱い姫様の為に幼馴染みが死ぬのは絶対嫌だった」
頭に手を置かれ、撫でられる。
「ごめん、さっきは露李ちゃんの言ったことで調子乗った。…本当、強い子だよ」
「先輩が謝らないで下さい」
謝られることではない。
それは文月の優しさであって、責められる言われは無い。
「露李ちゃんは本当、ずるいよね」
急に焦った顔をする文月を、露李は不思議そうに見つめ返す。
「俺ってどっちかと言うと譲るポジションだったのに、何でかな」
そう言ったかと思うと、突然抱き締められる。
「──誰にも渡したくない」
耳元で呟かれた言葉にまた、今度は露李が焦る番だった。


