「や、やっぱり文月先輩、戻った方が…」
「んー?大丈夫だよ」
繋がれた手に狼狽えながら文月に呼びかける。
結が心配だった。
「雪崩では何分がタイムリミットって言うじゃないですかっ」
そう言いながら、歩きにくい雪の中での巫女装束だ、足元がふらついた。
雪崩じゃないし、としっかり突っ込み、文月が支えてくれる。
「結が過保護になるのも分かっちゃうなぁ」
「へっ?」
「危なっかしいからね、露李ちゃん」
「そんなことないです」
「どの口が言ってるの。…気づいてるだろうけど、ああ見えて結は色々考えてるからね」
少し振り返った文月の目は優しい。
「傷つけた分だけ守りたいとか思ってるんだろうね。罪滅ぼしとかいう考えじゃなく、純粋にさ。…結が感情的になるのを見たのは初めてだよ」
最後まで聞いて首を傾げる。
「…何というか、結先輩っていつも感情的なんじゃ」
二人で言い争うのは日常茶飯事、そうでなくとも何かと騒いでいる。
「結があんな騒いだりしてるのは、本当の気持ちを隠すためだと俺は思ってるけどね。ほら、無表情っていつかは変わっちゃうでしょ?」
「そういえばそうですね」
「それが、露李ちゃんが来てからだだ漏れだよ。守護者とか、命についてとか結の痛いとこに踏み込んでった
のってこれまで居なかったから」
そういう意味ではまだまだだよね、と文月が小さく笑う横で、露李はうっと胸を押さえた。
痛い所を突きまくっていたいたような。
というか皆、あの時は怒っていた。
もう少し違うやり方があったかもしれないのに突っ走って言いたいことだけ言って。
嫌なことしかしてない気がする、と露李は一人顔を青くした。
光の速さで消えてくれ自分。
「ああやって笑ってるからこそ、分かりにくいんだあいつは」
「文月先輩は一番分かってそうですけど」
神社の中はスッパリ綺麗に掃除されていて、やることがなくなった。
海松だろうなと考えを巡らせながら、物置に箒を仕舞う。
使う人が少ないからだろう、物置は整頓はされているが埃っぽい。
途端に鼻がムズムズしてくる。
何となく文月の前でくしゃみをするのは憚られて、後ろを向いた。
「ねぇ露李ちゃん」
文月が静かな声音で露李を呼んだ。
が、
「ぶしゃん!!」
何とも可愛いげのないくしゃみが盛大に出てしまう。
「っえ、すみません何て言いました!?」
自分の盛大なくしゃみに驚きながら振り向く。
咄嗟に作った笑顔が削げ落ちていくのが分かった。
どうしたのか、と怖くなった。
だって──あまりにも、冷たい。
そんな表情が文月の顔に浮かんでいたから。
「俺さ、君を殺そうと思ってたんだよね」
わずかに口角を上げて、露李を見ている。
声が出なかった。
文月から浅葱の気が出ていないために闘志は無いらしいが、ぐっと拳を握る。


