「…はい」
露李が頷くのを見ると、風雅はふっと微笑んだ。
「さー食うぞ!」
「すき焼きですよー」
折よく海松も入ってくる。
後ろには小さな女童を従えていた。
「あれ、海松さんその子たち…」
「露李様、『さん』はおやめください」
どうしても居心地が悪いのか、困った顔でやんわりと海松に訂正される。
「じゃあ、えっと。海松ちゃん」
おずおずと親しみを感じる呼び方に変えてみると、にこりと笑みを向けてくれる。
露李にとってもそんな風に呼ぶ人はいたことがなかった。
少し恥ずかしくなって目を伏せる。
「ね、ねぇ海松ちゃんその子達……」
話を逸らそうと尋ねると、海松は食卓に鍋を置き、手早く皿などを人数分整えてから答えた。
「私の術で出した人形です。蒼炎と星水晶と言います」
呼ばれたことに反応して彼女たちが顔を上げ、主人を見てから露李を見た。
死人のように生気の無い瞳に思わずぞくりと身を震わせると、海松も力なく口角を上げる。
「……怖いですよね。私の力では自我を芽生えさせるまではいかなくて。お恥ずかしいことですが」
「ひと、かた…」
苦手だ、と思った。
しかしそれ以上に、羨ましかった。
自分には出来ないことを、いとも簡単にやってみせ。
そして、まだ足りないと言う。
黒い感情がちりりと芽生えた。
「だ、大丈夫です!露李様を襲ったりなどということは決してありません」
海松の焦った声に守護者達がじっとこちらを見る。
騒ぎつつ二人を待っていたのだが、今はその空気を敏感に感じ取って見守っている。
「姫様、あんまり海松をいじめないでやってくれないか」
口を開いたのは朱雀だ。
「こいつ結構気にしているんだ、人形に生気が宿らないこと」
いじめたつもりなど毛頭無かった露李はまたも雷に撃たれたように身体を強ばらせた。
「違います、いじめるつもりは…私はただ…」
「おい、どうした?」
風雅が露李の傍へ寄る。
今にも泣きそうに唇を噛んでいるのに、目だけは何も映さず空洞のように暗い。
「ごめんなさい」
「どうしたんだよ、謝ることじゃねーよ。疾風は過保護なんだ」
「傷つけるつもりは、ないんです…」
「なあ。露李──」
結が息を飲む。あまりに虚ろな瞳だった。
「私には…力がないんです」


