鋭い気は戦闘時は役に立つが、それ以外で人が来るのが気配で分かってしまうのはあまり良い気分ではない。
何メートル先にいても分かってしまうので、人数が多ければ多いほど混乱する。
そして何より──自分が取り乱すのが怖かった。
守護者には言っていないが、自分の犯した罪を忘れたわけではない。
「どうしたー?そんなじめじめした顔して」
「じめじめって、人をカタツムリみたいに言わないで下さい」
少しいじけて言ってみる。
ふいと顔を背けると、結が慌てたのが分かった。
「わ、悪かったって!泣くな!」
「泣いてません。そんな泣き虫じゃありません」
「お前どの口が言ってんだ、その言葉」
「この口ですが何か」
ひくっと頬をひきつらせながらも結は露李の頭をぽんと撫でた。
「良い度胸じゃねーか。…でもな」
言葉を切り、今度は得意気に笑う。
「お前の心は、俺が守ってやるよ。有り難く思え」
風雅 結様だからな、と付け足した彼にぷっと吹き出した。
それか湿り気を帯びていると気づかれたかどうかは分からない。
ただ、あまりにも心に響いたから。
泣きそうになった。
気持ちを汲んでくれていたこと、欲しい言葉をくれること。
その笑顔は、いつまで向けてもらえるのか。
自分が一族を殺したと知っても、結は笑ってくれるのだろうか。
「笑えよ」
不意に結が口を開いた。
「お前はずっと馬鹿みてーに笑ってろ」
「馬鹿は余計です!」
そう叫んだのはせめてもの虚勢だ。
「はいはい、っと。降りるか」
「そうですね」
名残惜しいが、仕方ない。
一面の雪景色は素晴らしいが、やることが沢山ある。
露李はもう一度辺りを見回してから、身構えた。
──私だって一応鬼。
いつまでも頼っていてはいけない。
「おま、一人で下りる気かよ!?」
「はい!神影 露李、いきます!」
そう言って飛び下りたものの──
「いった!!」
なぜか三角座りの体で着地するオチだった。


