【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく

作法通りに参拝を終え、箒で掃除をしていると、目の前に長い脚が見えた。


「おはようございます、露李先輩」


顔を上げると相変わらず可愛らしい整った顔をした静。


「おはよう静くん、早いね」


まだ寝てても良かったのに、と言うと彼はおかしそうに笑った。


「露李先輩の方が早起きじゃないですか。まだ暗いですよ」


「巫女のお仕事なんてこんなもんだよ。それに長いこと留守にしてたんじゃ示しつかないでしょ」


神様の怒りを買えばおしまいだ。

ただ、鬼の自分が神に仕えるというのは不思議な気持ちになる。


「露李先輩は、抱え込みすぎるんですよ。何でも」


「え?」


思わず手を止めた。


「ここを離れるときだって何も相談せずに行っちゃって、僕たちがそんなに頼りないかって思っちゃいました」


矢継ぎ早に紡がれる言葉に、露李は意味もなく手をバタバタと泳がせる。


「そういう訳じゃ、」 


「分かってます、露李先輩がそんなこと思うはずがないってことは」


でも、と静は拗ねたように目を逸らした。


「僕って年下…だから。守護者としても人としても未熟って、何だか悔しいです」


何だこの可愛い生き物は。


いつの間にか奪われていた箒に突っ込むべきか迷いながら、露李は静の柔らかい髪を撫でた。

少しだけ露李より高い所にある頭。

戸惑いの色を浮かべる萌黄色の瞳。

何度この優しい瞳に助けられただろう。


「頼りないなんて、そんなことないよ。いっつも大人で、落ち着いてて──励ましてくれる。静くんにしかできないことだよ」


近くなった距離のままにこっと微笑むと、すぐさまその頬が朱に染まる。


「え、あれ、えっと、何!?」


またしどろもどろになる露李。


「…見ないでくださいっ」


静が露李の肩に顔を埋める。


「卑怯です」


耳元で囁かれた言葉。


「な、何が!?」 


さっぱりだと狼狽える。耳に息がかかってくすぐったい。


─だから私、こういうの免疫ないんだってば!


考え考えしていると、答えが出る前に静が離れる。


「本当、風花姫なんかに興味持たないつもりだったのに。…気持ちに気づいたら、離れられないじゃないですかー」


どういう意味だ、と考える暇もなく。


『お父様!!海松ちゃん!!やだあっ、行かないで──』


幼い静の声が、頭に響いた。


「あ、はは」


上手く笑えない。

きっとこれは静の記憶。

思い出したくない記憶だ。


心配そうに眉を下げる静に笑いかける。


「ううん!私、あっち行ってくるから早く入ってなね!」


鋭い彼に勘づかれないように、その場を去った。