【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく

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半壊した日本家屋。

修復することもせず、彼らは庭にいた。

星月夜、睡蓮、宵菊、秋雨だ。

そしてその視線の先には有明。


「なぜ、追わなかったのですか」


秋雨が珍しく責めるような声色で問う。
 

「貴女にはあの子が必要だったはずだ」


「秋雨、お前まで私に歯向かうのか?水無月のように」


唇に薄ら笑いを貼り付けた有明が秋雨を見据えた。

庇うように星月夜が前に出る。


「ちげえだろ。有明様、あの子との約束も破って強引なことして、挙げ句逃げられて、あんたに何か得はあったのか?」


「約束だと?」


有明が笑みを深める。


「そんなもの端から交わしたつもりはない。鬼としての誇りも持たぬ小娘など──」


一拍置いて、落ちていた椿を拾い上げた。

血のように赤い花に口づける。


「道具にすぎぬ」  


「なんかそのやり方気に食わねぇなぁ、嬢ちゃん」


睡蓮が場にそぐわない軽快な調子で有明を見上げる。


「睡蓮、有明様を愚弄するなんて何様のつもり?」


宵菊が鋭く彼を睨んだ。


「愚弄?別に俺は有明様をこき下ろしたいわけでも何でもねぇよ、けど約束を守らないってのが鬼のやり方なのか?」


「己っ!」


「あの子は違ったけどなぁ?そんなやつに道具呼ばわりされるたぁつくづく不憫な子だよな、あの風花姫様は」


赤紫の瞳がキラリと光り、有明を真っ直ぐ見据えた。
 

「何が言いたい」


「今言ったこと全てですよ」
 

はんっと鼻で笑う睡蓮に宵菊がまた眉を寄せる。


「いい加減に…」


「俺が尊敬した有明様は、そんな方じゃなかった」


睡蓮と目を合わさずに、有明は唇を噛む。


「秋雨もさぁ、言いたいことはハッキリ言えよなぁ?あんたがいわねぇと取り返しがつかなくなる」


秋雨がそこで初めて無表情を崩した。

刺されたような顔をする。


ニヤリといつものように笑い、睡蓮はくるりと背を向けた。


「─どこへ行くつもりだ」


秋雨の声が追いかける。 


「あぁ?屋敷の修理に決まってんだろ。星月夜と秋雨も手ぇ貸せよ」


「仕方ねえな。有明様、失礼する」


星月夜も一礼してから睡蓮に続いた。


「秋雨」


「俺も、失礼します」



小さく呼んだ有明の声は秋雨に届かず、宙ぶらりんに消えた。

また唇を噛む。


「…有明様」


宵菊が彼女を窺う。

また木からボトッと椿が落ちた。


「…宵菊」


「はい」
 

「私は、間違ってないわ。間違うはず、ないんだもの」


言い聞かせるように呟く幼い少女を、宵菊はゆっくりと抱き締める。


「ええ。貴女様は間違ってませんわ」


優しい声音。

そうよね、とまた呟くと少女は主の顔に戻り、するりと宵菊の腕を抜け出した。

そして数歩進んで振り返る。


「そろそろ黎明が限界だろう。地下牢へ行くぞ」


はい、と返事をしてから宵菊は主君について歩きだした。  

間違っていると分かっていても、もう後戻りはできない。 
目をつぶる。

ごめんなさい、風花姫様。


浮かんだ曖昧な思いを、そっと埋めるように消した。


宵菊の知っている有明の姿はどこにもなかった。