泣いてたは、余計だ。
「露李が何か危ない目に遭ってる、ってことになんだろ。んで、気配辿って来たんだよ」
理津の言葉に水無月が眉をひそめた。
「待て。そんなことがあるはずない。有明様の結界は絶対だ、気配探知など不可能だ」
ああ、もうクソ年増でいいか、と付け加える。
「それでも露李を助けられた」
結が静かに言った。
「…感謝、している」
俺一人だったら何もできなかった、と呟く。
悔しそうに。
にっと笑う結を見てふいっと顔を背け、ねぎまを口に入れる。
「お前らから何か分かったことはねーのか?」
結が聞くと、露李があからさまに表情を強張らせた。
守護者たちが気遣うような控えめの視線を向ける。
「…有明様は、鬼でした。秋雨さんもです」
驚いたように目を見開いたものの、何も言わなかった。
「彼らは…有明様の目的は、花霞に私を捧げて霧氷を目覚めさせることです」
「あのクソ年増のことだよ、何か他にも企みがある」
水無月も一言添える。
「ごめんなさい、曖昧で…でも」
露李が顔を上げた。
「渡しません。何があろうと、私が守ります」
凛とした声、表情。
揺るがない決意がそこにあった。
「だけど」
露李の声が湿り気を帯びた。
「迷惑かけるし、申し訳ないと思うけどっ、一緒に、」
「当たり前だろバーカ」
結がニヤリと笑みを浮かべて言った。
「俺たちは守護者だろーが。お前を守らなくてどうする」
視界が曇った。涙もろくて嫌気がさす。
露李は優しさに慣れていない。
「また泣いてるのか露李」
「うるさい疾風」
「泣いてんだろ。往生際わりぃな」
「理津まで!」
からかわれる露李を優しく微笑みながら眺める文月と静。
「泣き虫だねぇ露李ちゃんは」
「露李先輩は笑顔が素敵ですよね」
「…ストレートだね静」
同意しそうになる俺も俺だけどね、と文月も胸の中で苦笑する。
「ねー露李俺はー?」
ぎゅうっと露李に抱きつく水無月。
五色の気がゆらゆらと立ち上ったのはまた別の話だ。


