何だったんだろ、と露李が首を傾げる横で理津は人でも殺しかねない人相で結を見ている。
「はは、理津すごい顔だねー」
「うるせぇな先輩」
茶化すような文月の声を背に、少し拗ねた顔だ。
露李にお礼を言われたことが何だかくすぐったくて、あんな風に言ってしまったが、本当は嬉しかったのだ。
露李が震えていたから、光を灯した。
暗闇が苦手だということを、気丈に振る舞っていたせいかそれまで気づいてやることができなかった。
露李は強がりだ。
久しぶりに見た露李は、目を離せば消えてしまいそうで。
露李だけが、跡形もなく───。
「…あ」
彼女が小さく声をあげる。
蔵の奥に、様々な術式がかけられた空間が見えた。
「氷紀」
「うん、これ破らないと入れない。…しっかし、改めて変な気分だなぁ」
水無月は今と同じ姿のままで眠る己の姿を眺めた。
「見てる方も変な気分だけど」
露李も不思議そうにしている。
「海松ちゃん、術式破れないの?」
露李に尋ねられた海松は顔を赤らめて目を逸らした。
「自分でも解けないほど、強い術をかけてしまったようで…未琴さまの札も使いました」
途端、水無月の顔が不機嫌に歪む。
「あのババアの札、だと?」
「そんなイライラすんなよ。人体保存は難しいんだぞ、察しろ」
結がそう言って、また腕組みをする。
「しっかしどうするかなー」
「僕たちの力じゃ駄目でしょうしね…」
静も困り顔だ。
「……露李、ごめん。頼めるかな?」
「──え」
一瞬何のことだか分からず戸惑ったが、すぐに理解した。
雹雷鬼だ。
水無月は露李に気を遣って尋ねてくれたのだろう。
しかし、露李の心にもはや迷いはなかった。
「大丈夫だよ」
にっこり笑って、心臓付近に手を置く。
絶対、大丈夫。
皆がいるから、大丈夫。
露李にとって禁忌であった雹雷鬼は、もう恐れられる必要がないのだ。
ゆっくり息を吸う。
そして、唱える。
「───出でよ、雹雷鬼」
銀の光が放たれた。


