***
なんとか家に入り、露李は久々に自分の部屋に入った。
見慣れた持ち物が並んでいるとやはり安心する。
露李は机に置いてあった鏡を手に取った。
銀色の台に透明のガラスが貼ってあり、その中に花が入っている。
小さい頃に未琴に貰った物だ。
いつだったか、もう思い出せないが。
確か誕生日だったような気がする。
今思えば子供にはいささか洒落すぎたデザインだった。
そっとそれを胸にあてる。
─私を、愛していなかったと言うならば。
全部全部、偽りだったと言うなら。
どうして誕生日プレゼントなんて。
未琴様─いえ、お母様は何を思ってこれを私に贈ったんだろう。
『いつか必要になる日が来るわ』
亡くなってしまった今、聞くこともできない。
私が…殺したようなものだけれど。
そう思ったところで、
「氷紀兄様?」
気配を感じた。
振り返っても誰もいない。
「あれ…」
確かに強い気配がする。どんどん近づいてくる。
「氷紀兄様──?」
一層強い気配を感じた瞬間、襖が開いた。
「あれ、気づいてたの?」
水無月だ。少し驚いたような顔をしている。
「うん。ちょっと前から」
「そう。力、やっぱり強くなったね」
水無月がふわりと笑うのとは裏腹に、露李の表情は不安そうに曇った。
「どうしたの?露李」
頭に手を乗せる──フリをして、水無月は微笑む。
露李は着物の滑らかな生地を味わうように、自分の手を包んだ。
鎖で繋がれていた手首の傷が、ちりりと痛んだ。
傷自体は鬼の治癒力で治っているが、術をかけられていたため感触が残っている。
もう大丈夫。ここは牢じゃない。
「強くなりたかったのに、今度は自分が鬼だって知って、怖くなった。悪者扱いされてた鬼、それにいつ力が暴走するかも分からない」
水無月がふっと目を見開く。
「──露李は、俺が怖い?」
ううん、と頭を振る。
「鬼が、嫌い?」
それにもまた、首を横に振る。
「違う、違うの…」
下を向いた露李の顔は見えない。
艶やかな栗色の髪がさらりと流れた。
「力を、制御できなくなったりしたら。暴走したら。私は、また誰かを消しちゃうの?」
──『同族殺し』。
違う。
私は殺したんじゃない。
私は───消したんだ。皆を。
なんとか家に入り、露李は久々に自分の部屋に入った。
見慣れた持ち物が並んでいるとやはり安心する。
露李は机に置いてあった鏡を手に取った。
銀色の台に透明のガラスが貼ってあり、その中に花が入っている。
小さい頃に未琴に貰った物だ。
いつだったか、もう思い出せないが。
確か誕生日だったような気がする。
今思えば子供にはいささか洒落すぎたデザインだった。
そっとそれを胸にあてる。
─私を、愛していなかったと言うならば。
全部全部、偽りだったと言うなら。
どうして誕生日プレゼントなんて。
未琴様─いえ、お母様は何を思ってこれを私に贈ったんだろう。
『いつか必要になる日が来るわ』
亡くなってしまった今、聞くこともできない。
私が…殺したようなものだけれど。
そう思ったところで、
「氷紀兄様?」
気配を感じた。
振り返っても誰もいない。
「あれ…」
確かに強い気配がする。どんどん近づいてくる。
「氷紀兄様──?」
一層強い気配を感じた瞬間、襖が開いた。
「あれ、気づいてたの?」
水無月だ。少し驚いたような顔をしている。
「うん。ちょっと前から」
「そう。力、やっぱり強くなったね」
水無月がふわりと笑うのとは裏腹に、露李の表情は不安そうに曇った。
「どうしたの?露李」
頭に手を乗せる──フリをして、水無月は微笑む。
露李は着物の滑らかな生地を味わうように、自分の手を包んだ。
鎖で繋がれていた手首の傷が、ちりりと痛んだ。
傷自体は鬼の治癒力で治っているが、術をかけられていたため感触が残っている。
もう大丈夫。ここは牢じゃない。
「強くなりたかったのに、今度は自分が鬼だって知って、怖くなった。悪者扱いされてた鬼、それにいつ力が暴走するかも分からない」
水無月がふっと目を見開く。
「──露李は、俺が怖い?」
ううん、と頭を振る。
「鬼が、嫌い?」
それにもまた、首を横に振る。
「違う、違うの…」
下を向いた露李の顔は見えない。
艶やかな栗色の髪がさらりと流れた。
「力を、制御できなくなったりしたら。暴走したら。私は、また誰かを消しちゃうの?」
──『同族殺し』。
違う。
私は殺したんじゃない。
私は───消したんだ。皆を。


