【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく

「よし、逃げるぞ」

耳元でボソッと声がした。

そして、体が宙に浮く。

「逃がさないよ」


文月が笑みを深めると、

「ちょっ何ですかこれーっ!!」

森の木々が枝を伸ばしてくる。


こうなったら頼みは理津しかいない。

「理津ーっ、助けて!!」


「あ?」


「すみません!」


ドスの効いた声が返ってきたので思わず謝る。

追っ手からひょいひょいと露李に抱きついたまま逃げる疾風。

と、すぐ耳元で囁き声が。

紫の光がある辺り、理津の幻術らしい。


「理津?」


ひゅんっと横を無駄に尖った木の葉が通り過ぎた。


《俺の言うこと聞くなら助けてやる》


「内容による!」


次に呪の鎖が飛んでくる。


《じゃあ助けてやらねぇ》


「えっ」


風が痛いほど吹いた。

「疾風っ、下ろしてよー!」


「バカっ、今下りたら確実に死ぬだろう!」


眠気が覚めたらしい、疾風は焦った声で叫び返す。


《言うこと聞くか?》


「ああもう、聞きます!!聞くから早く終わらせてー!!」


理津が笑う声が聞こえたかと思うと、すぐに紫の光が露李を包んだ。

あっという間に地面に下り立つ。

理津はニヤリと笑い、静に声をかけた。

静は露李の姿を目にとめると、


「拡声」


と呟く。


「おおーいお前らー。露李が戻ったぞー」


その途端、風も木の葉も止む。


「海松ちゃん…」


「露李様、大丈夫ですか!?」

海松ちゃん、癒しだ。

露李はげっそりと海松にすがりつきながらも、口元が弛んでいる自分に気がついた。


「疾風っ、覚えとけよー!!」


「何をだよ!」


「疾風、無自覚は罪だよ」


ぎゃーぎゃー戻ってくる三人を見、怪しげな笑みを浮かべる理津を見。

まだ不思議そうにしている静、そして疾風を射殺すような眼差しの水無月を見。

パタパタと家へ駆けていく海松を見。



──帰ってきたんだなぁ。



と、嬉しそうに笑う露李だった。