***
露李を助けに行くと言って出て行った守護者たちの無事を祈りながら、海松は台所で食事の準備をしていた。
露李が帰ってきたときに、沢山沢山食べてもらえるように。
海松はそう思ったところで、ふと顔を上げた。
一人きりの家は、寂しい。
ただでさえ大きな屋敷なのだ、未琴も亡くなってしまったので、本当に一人。
──未琴様。
海松は亡き師匠に思いを馳せる。
本当に、尊敬していたのに。
海松の記憶の中の未琴は厳しくも優しい師匠だった。
──お変わりになってしまったのは、いつからでしょうか。
結が修行に出る頃からか、未琴は急に狂ったように厳しくなった。
でももう、亡くなってしまった。
聞きたいことも山ほどあるのに。
─どうして、露李様にあそこまで酷いことをしたのですか?
心の中で問いかけたときだ。
「露李様!?」
ぴくんと身体が反応した。
この気配は。この気配は。
急いで台所を出て、気配のする方へ走る。
こんなとき、このだだっ広い家が本当に憎らしくなる。
下駄を履くのももどかしく、それでもきちんと履いて外へ出た。
もうすぐ一月、寒い風が吹き抜ける。
ブルッと身を震わせながら、走る。
走る度カランコロンと下駄が鳴った。
そして空を見上げて見えたのは、あの五人と水無月、そして。
振り袖姿の露李だった。
「露李様!!」
視界がぼやける。
徐々に高度を下げながら降りてくる露李は、飛び出して来た海松を見て目を丸くした。
それからくしゃっと顔を歪める。
「ほらよ」
結が地面に抱き下ろした瞬間、海松が露李に飛びつく。
「わっ、海松ちゃん…」
「私に何も言わないで出て行かれてっ…どれだけ心配したと思ってるんですかっ。敵陣に自ら進んで行くなんて!!」
泣き出してしまった海松の頭を、露李も泣き笑いで撫でた。
「…ごめんなさい」
「本当ですっ!露李様のお食事だけガラムマサラ入れますからね!」
え、と固まる。
後ろにいた結が笑いだした。
「はははっ、海松最高だな!おお、入れてやれ入れてやれ!」
「ちょっ、結先輩!?」
「それくらいは甘んじて受けろよ」
「ええっ」
辛いの苦手なのに、と海松に訴える。
海松はぐすぐす鼻声で答えた。
「存じておりますとも」
「うわぁ、海松ちゃんキッツ。かわいそ露李ちゃん」
文月もゆるりと笑った。
「絶対思ってませんよね」
間髪入れずに突っ込むと、疾風がぽんぽんと肩を叩いてきた。
「どしたの疾風」
ぎゅうっと温かいものに包まれる。
すぐ近くに、透き通った碧があった。
こんな近くで、何だろうこれは。
「疾風ー?」
「…寒い」
すぐに納得した。寒がりだったな、そういえば。
露李を助けに行くと言って出て行った守護者たちの無事を祈りながら、海松は台所で食事の準備をしていた。
露李が帰ってきたときに、沢山沢山食べてもらえるように。
海松はそう思ったところで、ふと顔を上げた。
一人きりの家は、寂しい。
ただでさえ大きな屋敷なのだ、未琴も亡くなってしまったので、本当に一人。
──未琴様。
海松は亡き師匠に思いを馳せる。
本当に、尊敬していたのに。
海松の記憶の中の未琴は厳しくも優しい師匠だった。
──お変わりになってしまったのは、いつからでしょうか。
結が修行に出る頃からか、未琴は急に狂ったように厳しくなった。
でももう、亡くなってしまった。
聞きたいことも山ほどあるのに。
─どうして、露李様にあそこまで酷いことをしたのですか?
心の中で問いかけたときだ。
「露李様!?」
ぴくんと身体が反応した。
この気配は。この気配は。
急いで台所を出て、気配のする方へ走る。
こんなとき、このだだっ広い家が本当に憎らしくなる。
下駄を履くのももどかしく、それでもきちんと履いて外へ出た。
もうすぐ一月、寒い風が吹き抜ける。
ブルッと身を震わせながら、走る。
走る度カランコロンと下駄が鳴った。
そして空を見上げて見えたのは、あの五人と水無月、そして。
振り袖姿の露李だった。
「露李様!!」
視界がぼやける。
徐々に高度を下げながら降りてくる露李は、飛び出して来た海松を見て目を丸くした。
それからくしゃっと顔を歪める。
「ほらよ」
結が地面に抱き下ろした瞬間、海松が露李に飛びつく。
「わっ、海松ちゃん…」
「私に何も言わないで出て行かれてっ…どれだけ心配したと思ってるんですかっ。敵陣に自ら進んで行くなんて!!」
泣き出してしまった海松の頭を、露李も泣き笑いで撫でた。
「…ごめんなさい」
「本当ですっ!露李様のお食事だけガラムマサラ入れますからね!」
え、と固まる。
後ろにいた結が笑いだした。
「はははっ、海松最高だな!おお、入れてやれ入れてやれ!」
「ちょっ、結先輩!?」
「それくらいは甘んじて受けろよ」
「ええっ」
辛いの苦手なのに、と海松に訴える。
海松はぐすぐす鼻声で答えた。
「存じておりますとも」
「うわぁ、海松ちゃんキッツ。かわいそ露李ちゃん」
文月もゆるりと笑った。
「絶対思ってませんよね」
間髪入れずに突っ込むと、疾風がぽんぽんと肩を叩いてきた。
「どしたの疾風」
ぎゅうっと温かいものに包まれる。
すぐ近くに、透き通った碧があった。
こんな近くで、何だろうこれは。
「疾風ー?」
「…寒い」
すぐに納得した。寒がりだったな、そういえば。


