「露李、大丈夫なのか?」


追いついた疾風が心配そうに眉を下げた。


「うん。あの、ありがとう」


少し気まずくて目をそらしながらお礼を言うと、頭にぽんと手が置かれた。

そのまま髪をくしゃくしゃ撫でられる。

夜風に揺れる碧の髪。

藍の瞳が優しく細められた。


「急に殊勝になるな、気持ち悪い」


「ちょ、気持ち悪いって」


「つーゆり。そう怒るんじゃねぇよ、事実だろ?」


今度は理津が露李のほっぺたをつまむ。


「いひゃいはら、ひふ。ほへははひはい!」


「あぁ?聞こえねぇな」


紫の目を片方だけつぶって笑う。

普通なら引くような行動も理津がやると様になるので嫌だ。


「…痛いから、理津。それから近い」


不機嫌マックスの結が解説。


「…何で結の野郎が答えんだよ。分かってんだけど」


理津の言葉を聞いた疾風がぐっと拳を握る。

分かってたのかよ!と突っ込みたいらしい。

それが手に取るように分かって、露李はふっと笑った。


「結の野郎だと!?」


「何だよ文句あんのか」


「大アリだっつーの!」


「ちょっ、結先輩!露李先輩が大変ですって!」


ムキになる結を静が押さえる。

何しろ結の腕に抱かれたままの露李はゆっさゆっさと揺れているのだ。

所謂お姫様だっこといえどそう楽な姿勢でもない。

加えて露李は力を奪われたばかりで、腕の中で目を回している。


「おわっ!?悪い露李!」


結が顔を青くしたところで、


「…貴様、俺の露李に何をしている」


閻魔が舞い降りた。


「水無月さん」


露李に弱々しく呼ばれ、水無月はそちらに向かってにこ
りと笑いかける。


「露李、大丈夫?それに今は氷紀でいいよ」


「は─うん。ありがとう」


敬語を慌てて外す姿を優しく見る。

が、すぐに結の方を向いた。

透けた身体が月の光を受けてキラキラしている。

キラキラとは反対の表情を本人はしているわけだが。


「…この俺が元の身体に戻った暁には貴様を潰す。俺が触れられないから任せているだけだからな」


「あ…ああ」


「腐ったネギにも及ばない貴様に露李は任せられないな」

「誰がネギだ!」


「ネギではない。腐ったネギだ」


「ヒトじゃないじゃねーか、どっちも!」


「ネギにしてもらえた分、光栄に思え」


そんなやりとりが懐かしくて、笑ってしまう。


「もうどこにも行くなよ、露李」


疾風が少し先で笑っている。


「おう。今度勝手にどっか行ったら襲うからな」


「理津はまた…でもね露李ちゃん。君がいなかったら守護者──俺たちの存在意義が無くなっちゃうんだから、やめてよね」


呆れ顔をしながらも文月が念を押した。


「すっごく寂しかったんですよ?」


静も嬉しそうに笑う。


「だってよ露李。分かったかー?」


翡翠の瞳が露李を覗きこむ。


「うっ…すみませんでした」


そう口に出した途端、はああああっとそこら中からため息が聞こえた。


「え、何で!?」


水無月まで微妙な顔をするので、思わず叫ぶ。

金色の前髪を少しつまんで、結が露李を睨んだ。


「謝罪よりも、違う言葉が聞きてーの。分かるか」


「え、」


何それ。


「露李。ごめんじゃ悲しいんじゃない、こいつらは」


水無月は嫌そうに言うが、露李はあっと納得した顔をした。


「助けてくれてありがとうございます!」


そう叫ぶ。


五人はそれぞれにぷっと吹き出したあと、おう、と笑った。


「お前が俺達を想ってくれたように、俺たちの一番はお前なんだよ、露李」


結に耳元で囁かれ、露李は顔を真っ赤にしたのだった。