「露李ーーっ!!」


声が、聞こえた。


「結、先輩…?」


どうして。何故ここに。


「露李ちゃん!!」


「返事しろ露李ーっ!!」


「露李先輩ー!!」


「どこにいやがるっ!!露李ー!!」



「文月先輩、疾風、静くっ…理津…!」


それは間違えようもない、守護者たちの声だった。

傷つけたのに。

どうしてここに。


「勝手にいなくなるんじゃねーよ!!俺たちはそんなことっ、許した覚えねーぞ!!頼むからっ!!」


手を、伸ばしても良い?


「───叫べ露李いいいいーー!!!」


勝手にしてごめんなさい。

傷つけて、ごめんなさい。

私は──。


「皆ーーーっ!!」


痛む身体もお構い無しで叫ぶ。


ガシャーンという建物が壊れる音。

ガラスが弾けるような音─つまり、術が破られる音。


「露李っ!!」


声と共に、結が地上の出口から飛び下りて来た。


「結、先輩」


「何つー格好してんだ、お前…」


結は露李に駆け寄るとため息をついた。


「何で、ここに…」


「話は後だ。行くぞ、下がってろ」


「でもっ、ここ術がかかってて…」


結が怒ったような顔で露李をまっすぐ見る。


「このままここにいたら死ぬぞ」


「でもっ!私は─」


自分で叫んでおきながら、何を。

そうは思ったがまだ少しの戸惑いがあった。

自分が同胞殺しだと言われたばかりだった。


「何考えてるか知らねーけどな、露李。…命を簡単に捨てるな!一人で突っ走るな!危ないときは俺が助けてやる。だから…少しくらい頼れ!」


ぼろ、と一粒涙が落ちた。



「先輩、助けてっ…」


よし、と結が微笑む。


「っしゃ、そこどいてろ」


結の周りに翡翠の気が溢れ出す。

軽い音を立てて自らの腕に風の刃を造り出した。

腕を大きく振りかぶる。


パリーン!!──


ガラスが割れるような、だが本来のそれとは比にならない大きさの音が鳴り、術が破れた。

牢が開き、結が中へ入って来る。


「大丈夫か?─って、何だこれ」


露李の身体に巻き付いた光と手首の鎖を見て、結の声が
微かに怒りに震える。


「こんなもん…動くなよ露李。風雅 結様に喧嘩売ってんのかこれ」


また翡翠の気が牢に満ち、術が解ける音が聞こえた。

途端、ふっと身体が軽くなる。

ふらりと崩れた露李を結が優しく抱き止めた。


「もう、どこにも行くなよ」


「…はい」


耳元で囁かれた声に、露李はしっかりとした声で返事をした。