とん、とんと階段を降りて来る音がした。


「誰だ」


水無月が闇に問いかける。


「まだそんな態度なのか、水無月よ。まあいい、露李姫。牢の居心地はどうだ?」


有明だ。

カチン。

嘲笑うような声に腹が立った。


「良いわけないでしょう」


「おや、もう態度が変わってしまった。有明様とは呼ん
でくれないのか」


「呼びたくもないわ」


本当は信じていたかった。

そう表情で告げる露李を有明は楽しげに眺める。


「そうかそうか。時期に奇襲に出るが、最高の気分だろう?雑魚が消え失せるのを待っているのは」


「一体何がしたいんですか!?」


ガンっと鉄格子にしがみつき、有明に叫ぶ。

金と銀の気が満ち始める。


「ほう、今度は怒りか……そうやって私を殺すのか?以前お前の一族を滅したように」


「は、」


「何者かがお前の一族を滅ぼしたと言ったか…それはな、露李。お前自身の所業だぞ」


「違う、私はそんなことしない!!」


有明はただ露李を嘲笑う。


「そうか?私はこの目で見たがな。千年目の夏焼家の女鬼が、同族殺しをした瞬間を」


感情が昂り、そのお前の気で皆殺しだ──。

甘く囁く声に鳥肌が立った。

突然、檻の中に有明の手が伸びてきた。

露李の顎をつかみ、荒々しく引き寄せる。


「私の目的はな、花霞を奪い、お前の力で霧氷様を解放することだよ」


にやりと笑った瞬間、青みを帯びた銀の光が露李に巻き付いた。


「ああっ!!」


「もがけばもがくほど力を奪うぞ。楽しみだ」


有明はそう言い、地下を去って行った。


「くっ、う…」


痛みと熱が露李を襲う。

水無月がすくっと立ち上がった。

少ししゃがんで露李に視線を合わせる。

身動きのとれない露李は、喘ぎながら水無月を見返した。


「露李…助けるから。俺は魂だから、抜けられるかもしれない。だから、待ってて」


優しく露李の頭を撫でる。


そして、消えた。

ここへ来たのと同じ方法で移動したのだろう。


思考回路をかき回されるような感覚に、露李は歯を食い縛った。