「文月か」
少し離れた木に文月が立っている。
タンッと枝を一蹴り、結の横へ綺麗に着地した。
「もう風雅家の用事は終わったの?」
「おう!この俺にできないことはねーよ」
にかっと笑う結に文月は眉を寄せた。
幼馴染みの自分に気を遣わせている。
それを目の当たりにするのは気持ちの良いことではない。
「あっそ。まぁとりあえず感情の昂りは抑えるようにね、下手したらそこらの妖とか低級のが死ぬよ」
修業を重ねた結の気は殊更に凄まじい。
結は少し拗ねた顔をした。
「見てたのかよ」
「そりゃ見回りの途中で半端ない気が放たれてたら見にも来るよ。サボり魔みたいに言わないで欲しいね」
「んなこと言ってねーだろ!」
本気で焦る結を見た文月は楽しげに笑った。
それからふと神妙な顔になる。
「露李ちゃんのこと、言ったの?」
「言ってねーよ。言ったところであいつらにどうにかできるとは思えねーしな」
確かに、と相槌を打つ。
「神影本家には…どうするつもり?」
「わざわざ関わってこねー連中に知らせてやる義理はねーよ」
少し怒りを孕んだ声。
未琴と連絡すら取っていない、しかも花霞のことは丸投げの家に露李のことなど一切教えたくない。
「だよねー…」
露李ちゃんは今、どこで何をしてるんだろう。
文月は空を仰いだ。
ふっと消えるように居なくなった彼らを追う術はどこにもない。
八方塞がりだ。
二人が歩いていると、ガサガサビュンビュンと風を切る音が聞こえた。
「何だ?」
二人は背中合わせに構える。
が、
「文月先輩!結先輩!何か今すごい気を感じたんすけど」
「おーい結!文月先輩!今の気はあんたらか?」
「皆さん大丈夫ですか!?」
木をピョンピョン移りながら疾風、理津、静がやって来た。
「どんだけ強いの出してたんだ、俺…」
「え、相当」
頭を抱えたくなる。
「大丈夫だよー、結がストレス発散してただけだからー」
文月がそう答えると、三人とも安堵の表情を浮かべる。
「びっくりさせんじゃねぇよチビ」
理津が吐き捨てる。
「寒いから帰りましょう」
真面目な顔で懇願したのは疾風だ。
寒がりには高速移動はキツかったらしい。
「あー…帰るか」
「海松ちゃんも待ってますしね」
五人が歩きだそうとしたとき。
身体に痺れるような感覚が走った。


