「だが、俺が思っていたより露李の力は強かったみたいだ」
「どういうことだ?」
「俺が露李の力を吸い取っても、あの子は力を失わなかった。雹雷鬼を出すのには相当な力が必要だからな。それに、武器を出現させられるのは強い鬼だけだ」
疾風は唇をぎゅっと引き結んだ。
自分達のために雹雷鬼を出した露李。
守れなかった。その心さえも。
「露李は何度も神影から殺されかけている。よく分からない妖気があるし、瞳は金色になる。俺が出会ってからは、その度に記憶を消してやっていた」
理津が首を捻った。
「それは、露李のためなのか?」
的を射た質問だ。
危機感が命を救うことはいくらでもあるはずで、露李にそれが無いとなると死ぬリスクは上がる。
「まだ俺も考えが浅はかだった…だが、神影は思った以上に底辺だった。露李があまりにも覚えていない故に奴らは殺すのを止めた」
本当に怖いのは、神影だ。
水無月は苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。
「神影のババアたちは露李の仲間、そして力を使うときの姿が瓜二つだからと俺を監禁した。有明様が助けに来て下さったけどな」
俺は露李を助けてやれなかった。
独り言のように呟く水無月。
「鬼や神影について俺が知っているのはこれくらいだ」
「いーや、まだ終わってねーぞ水無月」
「…何だ、風雅」
「何でお前は単独なんだ」
結の言葉に、水無月はまたしてもばつの悪い顔をした。
「…当初の目的を忘れるのは、はぐれ鬼の所業だと」
つまり、追放されたと。
文月が露骨に呆れた顔をした。
「目的が風花姫を奪うことではなく、露李を奪うことにすり変わっていた。だからだ」
守護者たちの視線にいたたまれなくなる。
「あー、俺も蔵の書物はだいたい把握してたけど…その辺に関しては全部黒塗りだったしなー」
「え、入ったことあったんですか」
静の指摘に一瞬身を固めた結だったが、すぐに元に戻る。
「まーな!」
言えるわけない、か。
文月は結を静かに眺めながら心の中で独りごちた。
「水無月が未琴さまの術を破ったのに、どうして露李は起きないんだ?」
疾風が悔しそうに問いかける。
「…これは推測でしかないが。恐らく、露李自身が無意識に目覚めることを拒否しているのだろう。銀の光は感情が昂ったかで抑制できなかったと考えるのが妥当だ」
全員が沈黙した。
露李が目覚めを拒否しているのならば、自分達はどうしたらいい。
目覚めない方が露李にとって幸せなのかもしれない。
「…あいつは泣いてた」
不意に、結が顔を上げた。凛とした表情をしている。


