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「皆さん、お茶が…え?」
海松が湯飲みを盆に乗せて五人の元へ行くと、異様な光景が飛び込んできた。
水無月が倒れた露李の横に座っている。
「えと、眼帯男がなぜここに…」
海松は広い敷地の隅にある蔵で未琴の葬儀の準備をしていたのだった。
警戒心丸出しの海松に静が苦笑しながら説明する。
「ここにしばらく居てもらうことになったんです」
「なぜですか?」
珍しく強気な態度に静の苦笑いが深くなった。
昔から海松はこうなのだ。
弱いように見えて、芯はしっかりと強い。
「そっちの方が色々都合が良いからじゃねぇの」
理津が海松の手から盆を取り上げながら言った。
「露李さんをあそこから出したのは彼ですか」
「ああ、そうだ」
疾風が生真面目に答え、海松は腑に落ちない表情だ。
納得できるようなできないような。
しかしながら、守護者が招いた客人にこれ以上無礼な態度をとり続けるのは海松のポリシーが許さなかった。
「水無月さん」
ゆっくりと水無月が顔を上げる。
「これからどうぞ、よろしくお願いいたします」
黙ったままだが彼が動揺しているのが伝わってきた。
「…ああ」
それだけの返事だった。
海松は小さく微笑む。
何か事情があるようだった。
彼の露李を見つめる目は優しい。
でなければ自分の幼馴染みたちが家に入れるはずがないのだ。
海松はちらりと理津に取り上げられた盆を見て胸を撫で下ろした。
情報交換をしようと、とりあえず六人分のお茶を淹れてきていたため不足はない。
人数が増えたとなれば夕食のことも考えなければならない。
「それでは夕食の準備をして参ります。あの、結さん」
「何だー?」
「水無月さんのお部屋まで案内して頂けないでしょうか」
結は少し困った顔をした。
「いいけどよ、どこが水無月の部屋になるんだ?」
この屋敷は広い。
加えて自分の家でもなく、勝手はできない。
「露李さまの隣が良いかと」
「おう、分かった」
快く頷いてくれたのでホッとした表情を見せながら海松は台所へ向かった。
「つーことだ、水無月。今から行くぞー」
「分かった」
露李の身体を抱きかかえ、立ち上がる。
廊下を移動しながら結は露李の顔を眺めた。
大きな悲しみを抱えた、風花姫を。
「露李の部屋はどこだ」
「…その角曲がったとこだ」
庭に面したその部屋へ入り、結が敷いた布団に露李を寝かせる。
涙の痕がうっすら残っている。結の指がそれをなぞった。
なぁ、お前は。
今どこにいるんだ?
「風雅」
「あー?」
ハッとした。努めて暢気な声を出す。
「ずっと分からなかったんだ」
脈絡のない話に首を傾げる。
だが、水無月の口調が柔らかいものになっていることには気がついた。
「信頼し合えるのは俺と露李、お互いだけだった。なのになぜ露李がお前らを信頼しているのか」
結は静かな眼差しで水無月を見つめ返す。
「今なら…分かる気がするよ」
水無月が微笑んだ。
今まで見たどの笑みよりも、優しい。
これが本当の水無月の笑顔だった。
「初めて見たときは分からなかった。あんまり綺麗になって、髪も伸びてたし。それに…あんな強気だとは思わなくて」
最初に露李と水無月に会った日のことを思い出し、結はふっと笑った。
確かにあれは強烈だった、と相槌を打つ。
「露李が雹雷鬼を出したときは驚いたけどね」
水無月は窓枠に腰かけて、片手で顔を覆った。
月光が水無月の身体を縁取る。
口元だけが笑っている。
「俺の…初恋だったんだ」
あのときはまだガキだったけど。
確かな想いは本物で。
水無月は何も言わない結に真剣な顔で向き直った。
「話すよ。露李の出自を」
「皆さん、お茶が…え?」
海松が湯飲みを盆に乗せて五人の元へ行くと、異様な光景が飛び込んできた。
水無月が倒れた露李の横に座っている。
「えと、眼帯男がなぜここに…」
海松は広い敷地の隅にある蔵で未琴の葬儀の準備をしていたのだった。
警戒心丸出しの海松に静が苦笑しながら説明する。
「ここにしばらく居てもらうことになったんです」
「なぜですか?」
珍しく強気な態度に静の苦笑いが深くなった。
昔から海松はこうなのだ。
弱いように見えて、芯はしっかりと強い。
「そっちの方が色々都合が良いからじゃねぇの」
理津が海松の手から盆を取り上げながら言った。
「露李さんをあそこから出したのは彼ですか」
「ああ、そうだ」
疾風が生真面目に答え、海松は腑に落ちない表情だ。
納得できるようなできないような。
しかしながら、守護者が招いた客人にこれ以上無礼な態度をとり続けるのは海松のポリシーが許さなかった。
「水無月さん」
ゆっくりと水無月が顔を上げる。
「これからどうぞ、よろしくお願いいたします」
黙ったままだが彼が動揺しているのが伝わってきた。
「…ああ」
それだけの返事だった。
海松は小さく微笑む。
何か事情があるようだった。
彼の露李を見つめる目は優しい。
でなければ自分の幼馴染みたちが家に入れるはずがないのだ。
海松はちらりと理津に取り上げられた盆を見て胸を撫で下ろした。
情報交換をしようと、とりあえず六人分のお茶を淹れてきていたため不足はない。
人数が増えたとなれば夕食のことも考えなければならない。
「それでは夕食の準備をして参ります。あの、結さん」
「何だー?」
「水無月さんのお部屋まで案内して頂けないでしょうか」
結は少し困った顔をした。
「いいけどよ、どこが水無月の部屋になるんだ?」
この屋敷は広い。
加えて自分の家でもなく、勝手はできない。
「露李さまの隣が良いかと」
「おう、分かった」
快く頷いてくれたのでホッとした表情を見せながら海松は台所へ向かった。
「つーことだ、水無月。今から行くぞー」
「分かった」
露李の身体を抱きかかえ、立ち上がる。
廊下を移動しながら結は露李の顔を眺めた。
大きな悲しみを抱えた、風花姫を。
「露李の部屋はどこだ」
「…その角曲がったとこだ」
庭に面したその部屋へ入り、結が敷いた布団に露李を寝かせる。
涙の痕がうっすら残っている。結の指がそれをなぞった。
なぁ、お前は。
今どこにいるんだ?
「風雅」
「あー?」
ハッとした。努めて暢気な声を出す。
「ずっと分からなかったんだ」
脈絡のない話に首を傾げる。
だが、水無月の口調が柔らかいものになっていることには気がついた。
「信頼し合えるのは俺と露李、お互いだけだった。なのになぜ露李がお前らを信頼しているのか」
結は静かな眼差しで水無月を見つめ返す。
「今なら…分かる気がするよ」
水無月が微笑んだ。
今まで見たどの笑みよりも、優しい。
これが本当の水無月の笑顔だった。
「初めて見たときは分からなかった。あんまり綺麗になって、髪も伸びてたし。それに…あんな強気だとは思わなくて」
最初に露李と水無月に会った日のことを思い出し、結はふっと笑った。
確かにあれは強烈だった、と相槌を打つ。
「露李が雹雷鬼を出したときは驚いたけどね」
水無月は窓枠に腰かけて、片手で顔を覆った。
月光が水無月の身体を縁取る。
口元だけが笑っている。
「俺の…初恋だったんだ」
あのときはまだガキだったけど。
確かな想いは本物で。
水無月は何も言わない結に真剣な顔で向き直った。
「話すよ。露李の出自を」


